エビデンスが正解にならない時

 「賛成か反対か」では見えない正解で紹介しましたが、1994年の国際エイズ会議でアフリカでのHIV(エイズウイルス)感染蔓延を抑え込むため、男性に割礼をすることを推奨していた研究者に反論した私は、結果として自分が考えている正解が必ずしも他の国で通じるものではないことを思い知らされました。では、それから30年経った今のWHOの考え方はどうでしょうか。いまだに Voluntary medical male circumcision for HIV preventionと紹介され、その有用性が認められています。すなわち、アフリカでの対策として今でも推奨されています。

 では、泌尿器科医でもある私が日本で、「HIV(エイズウイルス)の感染拡大予防のため、男子は積極的に割礼を受けましょう」と言おうものなら、「非常識」「何考えているの」「それでもあなたは医者」とそれこそSNSで炎上することでしょう。すなわち、WHOがアフリカで示した「エビデンス」のあるHIV感染予防手段は必ずしも他の地域での選択し、正解にはならないことがわかります。
 敢えてこのように書かせていただいているのは、いま、流行のように、「エビデンス」「科学的に正しい」「情報リテラシー」と言ったことが言われています。もちろんどれも大事なことですが、次のような事実を皆さんはどう思いますか。

 HPVの9価ワクチンのシルガード9の「効能又は効果」に次のように記載されています。
 ヒトパピローマウイルス6、11、16、18、31、33、45、52及び58型の感染に起因する以下の疾患の予防
 子宮頸癌(扁平上皮癌及び腺癌)及びその前駆病変(子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)1、2及び3並びに上皮内腺癌(AIS))
 外陰上皮内腫瘍(VIN)1、2及び3並びに腟上皮内腫瘍(VaIN)1、2及び3
 尖圭コンジローマ

 一方で中咽頭がん患者の85~90%でHPV16型が検出されます。厚生労働省が認可したワクチンでは中咽頭がん予防は適応になっていませんが、どう考えてもシルガード9は中咽頭がんの予防に効果があります。しかし、「ワクチンの適応範囲」ということでエビデンスを求めると、HPVのワクチン(シルガード9)は中咽頭がんの予防にならないことなります。

 性行為でのHIV感染拡大を予防する方法として次のようなことが明らかになっています。
 1.セックスをしない
 2.コンドームを使用する
 3.感染している人が治療してU=U(Undetectable=Untransmittable:治療でHIVが検出限界値未満になるとコンドームを使わない性行為をしてもパートナーに感染させない)を可能とする

 1は現実的ではないのですが、2と3はアフリカではいまだにハードルが高い状況です。小学校の6年間をアフリカのケニアで過ごした人間として、アフリカの国々が経済成長を遂げ、教育も浸透し、コンドームも当たり前のように購入でき、HIVに感染しても治療が当たり前のように受けられる状況になることを願っていますが、そのような状況になるまで後何年、何十年待てばいいのでしょうか。

正解依存症社会に広がる「自己実現の欲求」

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