紳也特急 244号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
 Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『コンドーム』~

●『生徒の感想』
○『コンドーム柄ネクタイにニタニタ』
●『他人と違う面白さ』
○『コンドームは破れる』
●『性感染症になって何が悪い』
○『ダブルコンドーム?』
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●生徒の感想
 はじめてプロジェクターなし、マイク1本での講演会を聞きました。すごく疲れたけど、お話しされてた事、全部一所懸命聞いていられました。(中3女子)

 映像を使っていなかったので先生と一対一で聞いているような気持になって、先生の話がより深く伝わってきました。(中3女子)

 会話をすること、それが人にとって一番のストレス解消法になるというところが印象に残りました。人とのコミュニケーションを大事にするとともに、話の聞き上手にもなればいいなと思いました。(中3女子)

 「性教育講演会」なんて2年生でやったから別にいいのに・・・なんて思っていた。が、3年生になって思わされた。性教育講演会というのは、将来を通して「何回も」学ばなければならないということ。「相手の意見を聞く」ことは何より必要だという言ことがわかった。(中3男子)

 私は少し人見知りなところがあるのですが、人とのコミュニケーションが大事だということを知り、困っていること、嬉しかったことなどを親や友達にどんどん話していこうと思いました。(中3女子)

 私は性のことについてあまり好きじゃなく、親とも話さないし、友達とも話さないし、恥ずかしかったりするけど、誰かに話すと人はいやされるって岩室先生は私たちのために堂々といろんな話をして、とても性や生命は大事ということが印象に残った。先生はたくさんの死を目にしたり、友達をたくさん失っているのに、先生としてたくさんのことを受け継いでいるのがすごいなと思った。(中3女子)

 人は経験に学び、経験していないことは他人ごとです。だから「命を大切に」、「相手を思いやろう」といった言葉を平気で話せる大人は大っ嫌いです(笑)。でも、私の話を聞かないで、あるいは聞いていても「岩室さんも『コンドームを付けよう』と言っているんじゃないですか?」と言う方がいます。そこで今月のテーマをずばり「コンドーム」としました。

コンドーム

〇コンドーム柄ネクタイにニタニタ
 日本エイズ学会に向かうため空港内のバスに立って乗っていたら、目の前の60歳前後のご夫婦がコンドーム柄のネクタイを見てヒソヒソ話。「素敵なネクタイですね」とでも声をかけてもらえればいろんな話ができたのに残念でした。また、こちらから声掛けをすることも考えたのですが「声をかけないで」というオーラが出ていたので諦めました。でも、よく考えてみるとそのご夫婦もコンドームのお世話になっているはずなのに、どうしてコンドームは秘め事なのでしょうか。そこで改めて何でコンドーム柄のネクタイをしているのかを振り返ってみました。
 最初にコンドーム柄のネクタイを私にプレゼントしてくださったのが性教育の大御所の北沢杏子さんでした。デンマークで見つけて「これはコンドームの達人の岩室さんにプレゼントしなくちゃ」とくださったのが何年前だったか忘れました。その次に同じようなコンドーム柄のネクタイをプレゼントしてくださったのが、今や日本家族計画協会の理事長になられた北村邦夫先生でした。「香港の空港で見つけた」と言ってプレゼントしてくれました。この紳也特急の配信を手伝ってくださっている渡部さん(元Campus AIDS Interface代表、現認定NPO法人子宮頸がんを考える市民の会理事長)が、秋葉原でコンドーム柄のネクタイを見つけたので買い占めてくださったおかげで、福山雅治さんにプレゼントをし、ツーショットを撮ることができました。このようにいろんな人のおかげで「コンドーム柄のネクタイの岩室紳也」が出来上がりましたが、よくよく考えてみると自分がしていることは、ただいただいたコンドーム柄のネクタイを締めているだけのことだと改めて気づかされました。

●他人と違う面白さ
 では、何のためにコンドーム柄のネクタイを締めているのかというと、他にしている人がいないから。しているだけでメッセージが伝えられるから。コンドームに対するハードルを下げられるから。と、後から付けられる理由はいろいろあります。「コンドームの達人」と呼ばれているのも、ある時、誰かが名付けてくれて「いいね」と思ってその後、勝手に名乗り続けているだけです。
 そもそも「コンドームの達人」と呼ばれるようになったのも、ある助産師さんが「コンドームって正しく着ければいいんですよね」と聞いてきたので、「『正しく着ける』ってどういうこと?」と聞いたら試験管を出してきてそれに着けていました。思わず吹き出しますよね。だって男のおちんちんには皮があり、それを上手に、丁寧に扱わないとコンドームが破れたり、外れたりすることを岩室紳也は個人的に学習していたのでした。「それは違いますよ」と即座に答えたものの、「じゃあ、どのようにつければいいのですか」と聞かれても自分で実演するわけにいかないので試行錯誤の結果、今のチャンピオン君が誕生しました。
 チャンピオン君の製造方法
 やっぱりここでも他の他人の言葉にただただ反応しただけでした。

〇コンドームは破れる
 チャンピオン君を使ったコンドームの装着法をいろんなところで紹介し始めた頃に、全国的にHIV/AIDSの予防啓発活動が盛んになり、神奈川県が作ったビデオにもチャンピオン君が出演しました。ただ、ここでビックリしたのが、多くの日本人男性がコンドームの正しい付け方を知らなかったことでした。そのためか、渡部さんたちがYouTubeにアップしてくださった動画の再生回数が、新旧のバージョンを合わせて今や660万件を超えるまでになりました。
 コンドームの達人講座(装着法)を実演する際に、「するなら着けようコンドーム」と言っていますが、一方でコンドームは破れることがあることもあわせて伝えています。その際に強調しているのが、残念ながら死んでしまった親友であり、私の患者でもあったパトの話です。これまでパト以外に正しいコンドームの装着法ができた人は一人もいません。先日、NHKの「眠いいね!」でご一緒した宮藤官九郎さんも、又吉直樹さんもダメでした。なぜパトが大丈夫だったかというと、彼はゲイであり、7割が包茎の日本人のパートナーとちゃんと相互練習をしていたからです。ストレートの日本人男性は自分のペニスにしか装着したことがない上に、誰かに装着法を教えるといった場面もないので、ただ「普通に着ける」ぐらいの感覚しかなくても当然です。
 そのパトはコンドームが破れてHIVに感染しました。なぜならコンドームは所詮ゴム製品です。正しく装着しても、タイヤがパンクするように、コンドームも破れることがあります。それだけです。私が話していることはパトが自ら経験したことの受け売りなのです。

●性感染症になって何が悪い
 HIVだけではなく、クラミジア、淋菌、梅毒など、様々な性感染症になる人たちと関わっていると、当たり前のことですがその人たちは普通の人です。ところが性感染症予防に関する講演を聞いていると「性感染症にならないように」という話ばかりです。先日行われた日本公衆衛生学会のシンポジストに「性感染症になってはいけないのでしょうか」と質問をしたら皆さん、ビックリされていました。もちろん性感染症にならない方がご本人にとってもいいことは間違いありません。しかし、予防を強調しすぎると、結果的に感染した人たちには排除感が残ってしまいます。

〇ダブルコンドーム?
 「コンドームの達人」と自分のことを呼びながら、実は最近、あまりコンドームのことを詳しく話してはいませんでした。1994年頃から本格的に「コンドームの達人」をPRし、1998年にそれまでのラテックスゴムだけだったコンドームにポリウレタン製品が導入された頃は大いに脚光を浴びましたし、その話を聞きたがる人も多かったと思います。2014年にイソプレンラバー製品が登場し、製品自体はいいのですが、「盛り上がる」までには至りませんでした。
 ところが、ところが、2019年10月に画期的なダブルコンドームが発売されました。「えっ? 2枚重ねOKのコンドーム?」と勘違いした人がいると思いますが違います。コンドームにもう一つの防御が付いているのです。「プレミアム ゼロゼロスリー?+ビバジェル」というオカモトが出した製品です。何が面白いかというと、ビバジェルというHIV(Human Immunodeficiency Virus:ヒト免疫不全ウイルス)とHSV(Herpes Simplex Virus:単純ヘルペスウィルス)に対し抗ウイルス作用をもつジェル剤が付いていることです。
 性感染症になっても、それこそHIVに感染しても今や治療で長生きができる時代になっています。しかし、ちょっとでも性感染症のことが気になる人だったら、それこそ2枚重ねにして予防を確実にしたいと思うことでしょう。でもコンドームの達人が「2枚重ねはダメ絶対」と言っているので泣く泣く1枚でしている人にはぜひこの新製品を勧めたいですね(笑)。
 「どのような人に?」と聞かれそうですが、ちょっとでも性感染症を身近に考えられる人です。例えば、次のような人です。
 
1. どちらかがHIVの検査を受けたことがない
2. 何となくセックスはしたいけど相手が病気を持っているかわからない
3. 仕事でいろんな人の相手をしなければならない
4. 彼氏がコンドームを付けたがらない

 そんな時、コンドームを装着させる口実に「この新製品知ってる?最新のダブルコンドームだよ。避妊にも、HIVやヘルペスにもそれなりの効果があるんだって」と。コンドームが当たり前の生活用品になれるよう、達人ももう少し頑張ってみます(笑)。