紳也特急 27号

〜今月のテーマ『HIV感染と妊娠・出産』〜

●『コンドームを生協で売るか?』
○『HIV感染と妊娠・出産』
●『HIVに感染している人の出産』
○『パートナー間感染予防対策』
●『抗HIV薬の精子への影響』
○『抗HIV薬の胎児への影響』
●『母子感染予防対策』
○『リスクの確率の考え方』
●『望まれた妊娠での選択』
○『親の選択の尊重と支援』

★『炭疽菌への対応』

◆CAIより今月のコラム
「新聞折り込みチラシにだまされないコツ」
———————————————————————
●コンドームを生協で売るか?
 UNN関西学生報道連盟(神戸大学、同志社大学、立命館大学、関西学院大学、大阪大学、関西大学、奈良女子大学、神戸女学院大学、大阪外国語大学で構成する報道サークル)
http://www.unn-news.com から次のような取材を受けました。
 『現在私共の連盟では、連盟発足10周年を記念して「過去10周年の本紙記事を振り返る」特集を企画しております。その中で1994年の記事として「関西の大学生協におけるコンドーム論争」を大学生協などに再取材中です。
▽1994年9月26日発行の「キャンパスウィークリー」(当連盟発行の週刊FAX新聞)より
 関大ではすでにモニターでコンドーム生協販売対応さまざま
 「コンドームを生協に置くこと」は是か非か。同志社大での論争は、関西の大学にこの問題を突きつける大きなきっかけとなっている。奈良女子大学では「議論になることもない」とそっけなく、神戸大ではかつて、業者の自販機設置を拒否した経緯がある。関学大では「問題の商品でしょう」と慎重な態度をとる。その一方で、関大では半年ほど前から、エイズ啓発の意味もこめて販売モニターをしているなど、対応はさまざまである。
                         【9月24日 UNN】
▽取材させて頂きたいこと
・コンドームの需要の推移
・大学生協にコンドームを置くことで啓発になると思われますか?
・今と昔で若者の意識に何か変化はあると思われますか?
・意識を変えるにはどうしたらよいとお考えですか?
 この取材に対して「コンドームの需要は伸びず、最近はむしろ低下傾向である。コンドームを置くことが啓発になるという視点は古い。HIVはもはや身近な問題であり、コンドームは日常生活用品として生協にあって当然のものではないか。セックスをする大学生が50%以上になっている。50%の女性が使う生理用品は売っているのに、コンドームが売られていないのは?????」と回答しました。取材してきた記者に対して「あなたの友だちがHIVに感染したらどう思うか」と聞くと、「不特定多数とする人と思う」という正直な答え。差別や偏見を植え付けられてしまったあなたが受けた教育をどう思うか。啓発する大人側が偏見や差別に凝り固まっている問題点、等々を話しました。
 コンドームを使わないから感染する。しかし、HIVに感染しても人の気持ちは何ら変わることはありません。最近、感染している人、感染しているパートナーを持つ人が子供を望み、かつ実際に子供を生んだという報道がありました。しかし、HIVをもった人が子供を希望することについて様々な考え方があるようです。そこで今回のテーマは「HIV感染と妊娠・出産」としました。

○『HIV感染と妊娠・出産』

あなたはどう思いますか?
 男性、女性を問わずHIVに感染している人が子供が欲しいと思うのを「あなた」はどう思われますか? もし、自分が、自分の子供、友だちが次のような状況(結婚していて20歳代後半、経済的にも社会的にも自立した社会人、HIVに感染)と想定して考えてみてください

[NHKニュース速報]===========================================
HIV除去の人工授精で出産
=========================================[2001-10-02-11:14]
 鳥取大学医学部附属病院がエイズウイルスに感染した男性の精液からウイルスを取り除いたうえで行った人工授精で赤ちゃんが誕生し、この赤ちゃんはウイルスに感染していないことが確認されました。
 人工授精を行ったのは、鳥取県米子市にある鳥取大学医学部附属病院産婦人科の原田省(ハラダタスク)講師です。
 原田講師は、血友病治療のための非加熱の血液製剤でエイズウイルスに感染した男性とその妻から相談を受け、去年五月に大学の倫理委員会で承認を受けたうえで、人工授精を行いました。
 原田講師によりますと、この人工授精は、男性の精液からすでに幅広く行われている技術を使ってエイズウイルスを取り除いたうえで行われたということで、今年無事生まれた赤ちゃんは、検査の結果、赤ちゃんも妻もウイルスに感染していないことが確認されました。
 原田講師によりますと、大学の倫理委員会の承認を受けたうえで行われたこうした人工授精で、赤ちゃんがエイズウイルスに感染せず、無事生まれたのは国内で初めてだということです。
 この人工授精では、妻と子への感染の危険性が残されていて、大学の倫理委員会でも、このことを夫婦に伝え納得してもらうことを条件にしていました。

●『HIVに感染している人の出産』
 最近、妊娠を契機にHIV抗体検査を受け感染していることに気がつく人が続いています。ところが、妊婦さんがHIVに感染しているとなぜか「子供を生まない方がいい」とアドバイスされる場合が少なくないようです。その理由として説明されるのが
1.母子感染のリスクがあり、子供が感染したら不幸である。
2.感染した子供用の薬が少ない、薬をきちんと飲めない、といった理由で大人ほど治療効果が期待できない。
3.母親が感染しているとすれば将来発病して子供が大きくなるまで育てられなくなる。
4.父親も感染している場合はさらに育てきれない可能性がある。
 確かにこのような説明を受けると、妊娠、出産を諦めてしまう人がでることも容易に想像できます。しかし、本当にこのような視点だけでいいのでしょうか。

○『パートナー間感染予防対策』
 紹介したNHKの記事にあるように、男性がHIVに感染していて、その彼の子供を妊娠することを希望しているHIVに感染していない女性が妊娠しながらもHIVに100%感染しない方法は現在のところありません。男性の精液の中のHIVを減らすことが実際に行われ、感染予防に一定の効果を挙げています。男性の抗HIV療法(エイズウイルスを薬で抑える治療)が効果を上げていれば、血液中のウイルス量が検出限界以下になると同様、精液中のウイルス量も減ります。男性に対して効果的な抗HIV療法を実施し、さらに鳥取大学で実施した方法を取り入れれば女性の感染確率は限りなくゼロに近くなります。

●『抗HIV薬の精子への影響』
 男性が治療を受けている場合、抗HIV薬が精子に悪影響を及ぼすかというと、実はYESでありNOです。確かに抗HIV薬に限らず多くの薬は精子に影響を与えます。しかし、幸いなことに影響を受けた精子は受精し発育することができないため男性が薬を飲んでいることが受精卵に影響しないとされています。

○『抗HIV薬の胎児への影響』
 薬が妊娠に一番影響するのは受精卵が育っていく過程です。それも妊娠初期では胎児に重大な影響が出ることがありますので、妊婦さんが薬を飲む際には胎児への影響を最小限にする工夫が必要になります。現在、比較的安全性が確認されているのは出産前にAZT(ZDV)を妊婦さんに投与することです。HIV量が多い人ではウイルスを十分抑えることができないため何種類かの薬を投与することも行われていますが、当然のことながら胎児に影響が出るケースも増えています。妊娠前から抗HIV療法を始めている人の場合は妊娠初期から胎児が薬に暴露されるため子供に障害が出る可能性は高くなります。抗HIV薬の影響を最小限にするには、妊婦さんが薬を飲む時期を妊娠後期にし、しかも薬を使う時期をできるだけ短くすることが望まれます。そういう意味では、HIVに感染してからそれ程時間が経っていない、まだ抗HIV療法の必要がない女性は比較的安心して妊娠できますが、抗HIV療法が必要になりそうな人は慎重な判断が必要です。妊娠してからのHIV抗体検査で感染がわかる人がいますが、その場合は今回の妊娠が発病や治療開始までの時間が次回の妊娠の時よりあるので、結果的には一番安全なチャンスということになります。(将来的に一度体内に入ったHIVを完全に駆除できる治療法が確立されない限り)

●『母子感染予防対策』
 母子感染は子宮内、出産時、出産後の授乳時におこります。一番感染リスクを下げやすいのが授乳しないことです。ただ、日本のように代替の物が手に入りやすく、経済的にも負担できる場合はいいのですが、これが難しい地域もあります。出産時は帝王切開にすると感染リスクが低下することは間違いないことですが、最近は出産直前の治療で母親のHIV量が低い場合は膣を通した出産でも母子感染はほとんど起こらないという意見もあります。ただ、経膣分娩ではいろんなことが起こりえますから、私なら事情が許せば帝王切開にします。

○『リスクの確率の考え方』
 実際にHIVに感染している妊婦さんやその家族は「どれくらいの確率で母子感染が起こるのか」ということを気にします。これはもっともなことで、医者は論文のデータ等を参考に、ケースバイケースのデータを示すことはできますし、実際の診療場面ではそうします。ただ、確率が100%か0%でない限り必ず不安は残ります。1%と聞いて「少ない」と思うか「多い」と思うかは性格もあるでしょうし、その時の精神状態にもよります。妊娠を契機にHIV感染がわかった方の場合は、感染の事実だけでパニックでしょうから、子供のことまで冷静に考えるのは非常に大変なことです。中絶するとなれば最終判断をするまでに期限を限定されてしまい、ゆっくり考えている暇もない状況になります。

●『望まれた妊娠での選択』
 HIVに感染した子供は生まれきてはいけないのでしょうか。子供が背負って生まれてくる問題は少ないに越したことはありません。親の負担も並大抵のものではないかもしれません。しかし、知的障害、身体障害、あるいは例え早期に病気になってしまうことが判っていても、命を落とすことが判っていても、生まれてくる命は尊いものです。思春期の「望まない」妊娠や中絶の話が後を絶ちませんが、それら望まれない妊娠に対して、HIV感染では親に「望まれた」妊娠です。母子感染というリスクはあるかもしれませんが、妊娠そのものは望まれているということが重要です。

○『親の選択の尊重と支援』
 鳥取大学のケースでは大学の倫理委員会の承認を受けた治療と位置づけられています。治療という意味では新しい方法ですから、精子に問題を起こす可能性を含めていろんな議論することが必要だと思います。しかし、「この人工授精では、妻と子への感染の危険性が残されていて、大学の倫理委員会でも、このことを夫婦に伝え納得してもらうことを条件にしていました」という記載はどうも納得ができません。報道ですからこれが鳥取大学の真意を伝えているとは思っていませんが、100%安全ではないことは明らかで、当然リスクを覚悟されてのことでしょうから、敢えて倫理委員会が指摘するまでもないことのように思います。共同通信も「子供へのHIV感染を恐れて出産できずにいた夫婦にとって朗報だが、母子に感染する可能性がゼロとは言えず、倫理的な問題は残りそうだ。」と報道しています。倫理って何でしょうね。当然、妊娠しなかったけどパートナーが感染したということもあり得ますが、それは当人同士が決定することです。薬害エイズの被害者の家西悟さんご夫妻に子供ができたときも、いろんな批判があったようですがそれも変ですよね。
 結局は、生むか生まないかの判断を親たちがするしかありません。われわれ医療関係者も、家族も、友人達も本人たちが悩んだ結果下した判断について、否定も肯定もする立場にはないと思います。親の選択を尊重して、その後の悩みや苦しみについて可能な範囲で支援していくしかできません。そして、どのような状態で生まれてきても、その子が一生懸命生きられるように支援していきたい、と私は思っています。

★『炭疽菌への対応』

〜不審物(白い粉)が発見された場合の対応について〜

 アメリカの炭疽菌テロをまねた事件が発生しています。炭疽菌は肺に感染しなければ、すなわち肺に吸い込まなければほとんど心配のない菌です。そのため、炭疽菌と疑われる不審物(白い粉)を発見した時には以下の方法で対処してください。

1.第一発見者は、直ちに息を止めてその場を離れる。
2.他の人にその場に近寄らないことを伝える。
3.最寄の警察に連絡をする。
4.不審物(白い粉)を浴びた場合は衣服の上から不審物を流水で洗い流す。
衣服を脱ぐ行為は不審物を飛散させる可能性があり危険。この場合、不審物の特定がでないので、可能であればその一部をビニール袋に入れる、あるいはガムテープで回収する。

 不審物を回収しようとすると空気中に飛散し、それを吸い込むことになりかねませんのでいたずらに触らないようにしてください。
 危機管理の観点から、不審物に関わる人を最小限にする必要がありますので多数の人間で不審物の回収をすることはかえって被害を拡大することにつながってしまいます。不審物が飛散してしまう可能性がある場合は第一発見者の人がビニール等で不審物を覆った後、その場を離れて警察の到着を待つ。

以上を徹底していただければ炭疽菌はそれほど心配しなくてもよいものです。

 実際には水で洗い流してしまうのが一番です。

◆CAI編集者より今月のコラム

 新聞の折り込みチラシの広告内容に、だまされた!と感じたことはありませんか?でも、「チラシにはうそは書いていない。そのかわり余計なことも書いていない。」ということに気付きましょう!今回は和牛と国産牛の違いをお知らせします。

和牛・・・次の4種のみです。
褐毛(あかげ)和種、黒毛和種、日本短角種、無角和種。
国産牛・・・3箇月以上、日本で飼育された牛。
だから、アメリカ生まれでも、日本で肥育すれば国産牛と名のれるのです。

 牛、食べるかどうか最近迷うけど、牛肉売り場の表示をもう少し研究する価値ありではないかしら?
                  ( O.N ♀)