紳也特急 276号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,276  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『議論がないから増えるコロナ』~

●『生徒、大学生の感想』
○『議論が怖い』
●『岩室先生もいずれ感染しますよ』
○『ワクチンの効果は』
●『第7波がなぜ「過去最多」』
○『議論、対話からの学び』
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●生徒、大学生の感想
 昔、同じように性についての話をしてくれる講演があったのですが、その時に受けたものはあまりにも一方的に子どものでき方や母の出産までがどのようなものかを語る会で、とても性に対してよいイメージが持てず嫌悪感を抱いていました。今日も前回のような生命の尊さを語られたら寝てしまおうと思っていました。しかしいろいろな角度や見方、経験談から話をしてくださったのでとても面白かったです。(高2女子)

 セクシャリティや性行為、体のことなどを大衆の前で、今日初めてあった方に打ち明けなればいけない空気感、それが正しいと言わんばかりの先生の圧がすこし私には息苦しく、もう少しだけ優しく慎重に話して頂ければなと思いました。(高2女子)

 「正解依存症」。この言葉に衝撃を受け自分自身を顧みたとき、正解依存症だと自覚した。男女差別反対、戦争反対、経済格差をなくせ、教育格差をなくせ、といった理想を語ることはできてもその具体的な方法の中身は薄い。正しいものは正しいと押し付けるのではなく、課題の根本原因に目を向け、リスク対策を行うことの重要性を感じた。(男子学生)

 率直に先生のお話を中学生もしくは高校生の時に聞きたかったと感じた。「正解依存症」という言葉は初めて聞いたのだが、今までの人生の中で思い浮かぶシチュエーションがたくさんあり、自分の中にとてもすんなり入ってきた言葉だった。というのも、私の中学校ではクラス全体が「正解依存症」になっていた様に思う。誰か一人、クラスのリーダーの様な子が導き出したいろんな事柄における正解を元に私を含め全体が集団行動をしていた。そんな私には物理的な居場所、例えばお昼を食べたり、移動教室を共にしたりする友人はいても、精神的な居場所はなかった。当時はその様に感じたことはなく話す人がいれば十分と思っていたが、今少し精神的に大人になってから考えると今の方が話す友達の数自体は少ないが、自分を必要としてくれる友達がいて居場所があると感じる。(女子学生)

 同じ話をしても受け止め方はいろいろです。それは当然のことですが、多様な意見、考え方を受け止められない社会になると、結局のところ誰かの、もしかしたら間違った考えに引っ張られてしまう可能性があります。そうならないためにも議論、対話が必要ですが「議論が怖いので多数決じゃダメですか?投票とくじ引き民主主義」というニュースに出会いました。ちょうどその頃から新型コロナウイルスの感染拡大が続き、毎日のように「過去最多」を更新しているので、今月のテーマをストレートに「議論がないから増えるコロナ」としました。

議論がないから増えるコロナ

○議論が怖い
 議論が怖いので多数決じゃダメですか?投票とくじ引き民主主義
 このニュースを読みながら思い出したのが「私は岩室先生と考え方が違います」とコロナ対策の議論打ち切られた時のことでした。相手は政府の専門家委員会の先生でした。その後も専門家の方々だけではなく、いろんな方とお会いするとご自分の意見にすごく自信を持っている方が多いと思っていました。しかし、もしかしたらこれは誤解で、自信があるのではなく、議論が怖いので議論を避けるためにいろんな工夫をされていたのかもしれません。
 マスコミも、専門家も、繰り返し「基本的な感染対策の徹底を」と言い続けていますが、これも「そもそも基本的な感染対策とは何かの共通理解が得られていないのではないでしょうか」と議論をしようとしても、その議論が怖くて、議論にならないからではないでしょうか。
記事の中で興味深い言葉がいくつもありました。

 たいした意見なんか持ってないし、“論破”されてもいやだし…議論ってやっぱり、怖いものですよね?

 今の日本社会でイメージされる“議論”は、確固たる意思や考えを持った人が意見を主張しあう場として見られがち

 「それって違くない?」って言われたら、自分自身を否定されたような気分になるので、それはできるだけ避けたい

 多数派の意見がどれかを見て、そこに自分の意見をあわせるだけになってしまっている

 大多数の意見が“正解”なんじゃないかなって思っちゃうんです

 ふと広辞苑で「正解」を調べてみました。
  1 正しい解釈。正しい解答。
  2 結果として、よい選択であること。
 この1と2は似て非なるものです。1はゆるぎないものですが、2は結果が出るまで分からないことですし、結果が悪ければ出てこないことです。

●岩室先生もいずれ感染しますよ
 このように言われた時に、自分自身の表現力の未熟さ、伝えることの難しさ、さらに言うと今回のテーマとしている議論の難しさを感じていました。私が感染経路対策について細かく、いろんなことを申し上げていますが、それらを全部徹底しても感染を100%防ぐことはできないという大前提に立っています。すなわち「岩室紳也は絶対に感染しません」と言っているのではありません。こういうと、「じゃ、やったって無駄」とまたゼロか百かに戻ってしまう人がいます。まさしく議論を避けているのです。
 先日、タクシーに乗り、当たり前のように後部座席の窓を開け、空気の流れを創りました。しかし、それでもマスクをし、マスクなしよりエアロゾルを多く排出している運転手さんのエアロゾルを吸い込んで感染するリスクはゼロにはできません。

〇ワクチンの効果は
 私は4回目のワクチンを3回目の接種の5ヵ月と6日後に受けています。そのため、私が感染しても無症状のまま経過する可能性があり、当然のことながら感染源になる可能性があります。他の人にうつさないよう、飛沫をかけそうな環境では不織布マスクをし、飛沫で感染させるリスクがない時はマスクを外して少しでもエアロゾルの排出を減らし、可能な時は携帯型扇風機を使用してエアロゾルを拡散、排気するようにしています。
 このように考えていた時に知り合いでコロナ患者さんを多く診療されている先生が感染されました。後学のため4回目のワクチン接種時期をお聞きしたら3回目から6カ月と6日で、症状が出たのは4回目接種から14日後。このようなデータを蓄積しつつ、ワクチンを接種するならいつがいいのかをこれからも検証し続けることが大事です。

●第7波がなぜ「過去最多」
 今回の第7波では47都道府県のすべてで「過去最多」を記録しています。このことはすごく重要です。確かに60歳未満の3回目のワクチン接種率は2回目より低いですが、国民が実践している予防策はそれほど変わっていません。ということはいま、国民が認識している、これまで実施してきた感染予防策では防げない感染経路対策ができていなかっただけではないでしょうか。
 ところがこう書くと、「自分自身を否定されたような気分になった」という人がいらっしゃるのではないでしょうか。実際、SNS上でそのような受け止められ方をされたことも一度や二度ではありませんし、先日もあるイベントの会場で空気の流れを検証する必要性を訴えたところ、「ここは法律に則った空調設備を備えています」と堂々と反論されてしまいました。ちなみに感染症対策を念頭に置いた空調に関する法律は知りませんので、ご存じの方がいらっしゃいましたら是非教えてください。

〇議論、対話からの学び
 新型コロナウイルスの感染拡大が起きてから、いろんな人との議論や対話の中で学ばせていただいたことの一部を列挙します。

 エアロゾルという概念

 マスクが増やすエアロゾル

 口腔内にもACE2レセプターが存在

 新型コロナウイルスも一定量が体内に入らないと感染は成立しない

 新型コロナウイルスが空気感染しない理由

 他にも新型コロナウイルスの出現後に学んだことは数多ありますが、知らなかったことが恥ではなく、少しずつでも自分の知識を修正しつつ、適切な情報提供を行い続けるのが公衆衛生医の役割だと改めて思っています。今年のAIDS文化フォーラム in 横浜でもさらなる学びをし続けたいと思っています。皆さんもぜひご参集ください。

第29回AIDS文化フォーラム in 横浜
2022年8月5日(金)~8月7日(日)
https://abf-yokohama.org/

NHK Eテレ「すくすく子育て」に出ます。
2022年8月4日(木)午前11:20~午前11:55