紳也特急 278号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『インフルエンザに学ぶ』~

●『生徒の感想』
○『インフルエンザが冬に流行し夏は収まる理由』
●『新型インフルエンザが1年で収束した理由』
○『日本流のウィズコロナ?』
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●生徒の感想
 コロナの感染の仕方は、キスなどがあるとは思わなかったので、知れてよかった。(高1男子)

 今の時代の新型コロナウイルスを例に出して、とても分かりやすい講座だった。どんなうつり方で、どうすればうつる可能性を低くできるかを考えさせられた。(高1男子)

 はじめに先生の身の回りでたくさんの人が命を落としていることを知り驚きました。また、それを阻止するために根元を切るという意思で、医者として、今のコロナ対策に取り組んでいる内容もとても勉強になりました。(高1女子)

 パートナーのことを考えるということを授業中よく聞いてきたが、先生の授業で具体的にどういう風に考え行動するのか知ることができた。またコロナのことなどももちろん感染対策は必要だがどこまでするべきなのか本当に意味があるのかというのを考えながら日々生きていく必要があると思った。(高2男子)

 私もハンドタイプの扇風機を使っていますが、ただ暑いから使うのではなく、コロナ予防のため小さな飛沫を拡散させ、自分のため以外にも使用できるというのが驚きでした。(高2女子)

 講演の際に新型コロナウイルスの話を盛り込むと、今でも「そうだったんだ」という反応をもらいます。もっときちんと感染経路を含めた情報を伝えなければと思っていましたが、実は自分自身もしっかり勉強してないことがありました。「新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行に注意を!」と専門家が呼び掛けているのを受け、改めてインフルエンザのデータを見直したところ、自分自身の不勉強に気付かされました。そこで今月のテーマを「インフルエンザに学ぶ」としました。

インフルエンザに学ぶ

〇インフルエンザが冬に流行し夏は収まる理由
 紳也特急271号でインフルエンザが冬に流行し夏は収まる理由を考察しましたが、国立感染症研究所が毎年いろんな型のインフルエンザで調べているHI抗体(Hemagglutination inhibition test:赤血球凝集抑制試験法)でみると、その理由がさらに明確になりました。HI抗体は多くの型のインフルエンザウイルスで10代から40代で50~80%と高くなっており、この年代が一番感染していると言えます。抗体を持っていてもウイルスに感染しますが、発症しても症状は軽くすみますので、この年代は医療機関を受診せず、カウントされていないと考えられます。
 一方で10歳未満や高齢者では抗体価が低くなっていますが、特に10歳未満は感染が確認される人数も多く、その人たちは感染することで免疫を獲得します。また、10歳未満や高齢者はワクチン接種率が高く、ワクチンによる免疫に加え、感染することで免疫を獲得する人たちと合わせると、夏場には80%ぐらいの人がインフルエンザに対する免疫を持つことになるのではないでしょうか。
 新型コロナウイルスもワクチン接種率が80%を超えた2021年10月~12月はほとんど感染している人が捕捉されませんでしたが、夏場のインフルエンザも同じような免疫状況になっているからと考えられます。
 インフルエンザのHI抗体は数年間持続するため、インフルエンザがほとんど流行しなかった2020年冬から2021年春の状況を表す2021年7月~9月のHI抗体も若い世代では比較的高い値でしたが高齢者は値が低くなっていました。今年のHI抗体の結果はまだ出ていませんが、昨年よりさらに低くなると考えられますので、高齢者の間では新型インフルエンザの時のように冬場を待たずに流行する可能性があります。もっとも高齢者の方は相変わらず人との接触を避けている人が多いので、インフルエンザは今年も流行しないかもしれません。

●新型インフルエンザが1年で収束した理由
 HI抗体検査結果がインフルエンザの流行に及ぼす効果を教えてくれるのが2009年に大騒ぎになった新型インフルエンザでした。日本では2009年の夏場に流行が始まり、年末には収束に向かい、2010年以降のインフルエンザは従来通り、冬場に流行し、夏場は収まるという状況に戻りました。
 国立感染症研究所は新型インフルエンザ(A/California/7/2009(H1N1)pmd09)についても流行の前後でHI抗体価を調べています。その結果、流行前はHI抗体価が低く、新型インフルエンザが流行しても不思議ではない状況だということが裏付けられました。ところが、翌年は他のインフルエンザウイルスと同程度のHI抗体保有率となっており、いわゆる普通のインフルエンザになっていました。
 一方で新型コロナウイルスに感染した際にできる抗体はインフルエンザに対するHI抗体のように長く持続しないため、何度も新型コロナウイルスに感染する人がいますし、集団免疫を獲得することが難しいと言えます。

〇日本流のウィズコロナ?
 新型コロナウイルスとインフルエンザは感染経路対策では多くの共通点がありますし、ワクチンによる免疫が5カ月程度しか持続しないという点も似ています。しかし、感染することで得られる免疫の持続時間に大きな差があるため、新型コロナウイルスが今よりうんと弱毒化でもしなければ当分収まらないと考えるしかありません。
 となると感染予防が大事になるのですが、最近講演した事業所では飛沫感染予防のためのアクリル板は設置していたものの、エアロゾル対策として空気の流れを創る必要性が周知されていなかったためアクリル板が原因と考えられるエアロゾル感染でのクラスターが発生していました。残念ながらこれが日本流のウィズコロナなのかと思ってしまいました。HIV/AIDSが確認されてから41年経ちましたが、今でも「共に生きる」ということを確認し続けなければならないのが感染症の現実です。焦らず、地道に啓発し続けましょう。