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■■■■■■■■■■■ 紳也特急 vol,279 ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『一緒に盛り上がれない若者たち?』~
●『生徒の感想』
○『3日で10講演』
●『「共有」は経験から』
○『人を許せない場合』
●『盛り上がった結果?』
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●生徒の感想
言葉を濁すことなく、ユーモアを交えながらも真剣にお話ししてくださったので、しっかりと理解できたし、当事者意識も持つことができました。ネット検索して 1 番上に出てくるような情報やテレビの特集でやっている情報、鵜呑みにせずしっかりと見極めることが大切だと感じました。(高2女子)
学校どころかテレビでも聞けないような話が聞けたので良かった。役に立つ時が来るのかはわからないが今日のことは大人になっても覚えていようと思った。(高2男子)
とても聞いていて楽しかったです。あ、そういう考えがなぜ思いつかなかったんだ?と思うような単純なことに、毎秒のように気づくことができて、性やコロナの知識以上に、普段の生活の上での物事のとらえ方自体を360℃ひっくり返されたような気分でした。(高1男子)
今回の講演の内容は、人と関わる上で知らなければいけない大切なことだと感じたので、日本は確か 性的同意年齢が 13 歳だと思うのですが、その年齢でこの話をする必要があるんじゃないかと聞いていて感じました。(高2女子)
性教育を男女一緒に受ける意味を改めて感じることができました。(高2女子)
今後必要になる知識だと思いますし、貴重な講座?ありがとうございました!ゴムの事は大切だとは思いますが私個人としては女子の前で見せて欲しくなかったです。あと言葉の表現の仕方が問題だと思います。セックスではなく行為、生理ではなく女の子の日って表現してほしいです。文句ばかりで申し訳ないですが、率直な意見感想です。(高1女子)
大切なことを話していることはわかりますが、話が多くて自分の中でまとめられませんでした。すみません。結局、感染症になるのは自己責任だと思いました。何もしなければ、家に1人でひきこもっていれば感染することはないのだから、かかってしまったのならそれは自分の行動によるものだと考えました。自分に関係ないとは思っていないけど、やはり少し受け入れがたいです。(高2女子)
講演の後の感想は本当に勉強になります。私の投げかけに対して「面白い」と感じる人がいる一方で「不愉快」と感じる人がいることもその通りだと思います。「自己責任」という発想が既にインプットされ、修正できないというのも怖いと思いました。感想を読ませていただき、一人ひとりに大事なことは、一人ひとりがどう受け止めたかを仲間と共有することだと改めて思いました。一方で「感想」と「講演時の反応」の大きなギャップにも気づかされましたので、今月のテーマを「一緒に盛り上がれない若者たち?」としました。
一緒に盛り上がれない若者たち?
○3日で10講演
この原稿を書く直前の2022年10月26日(水)から28日(金)に北海道苫小牧市と恵庭市で、2泊3日で10講演をさせていただきました。高校生8回、中学生1回、PTA 1回でした。このように連続して講演することは正直なところ疲れますが、連続して講演をするといろんな気づきをいただけるので結構好き好んでお受けしています。
その中のある高校では毎年1年生と2年生に講演を聞いてもらっています。ある生徒さんは「昨年と中身が同じだった」と率直な感想をくれました。このような感想は裏を返せば、ちゃんと聞き、理解し、記憶に残っているから「同じ」と思うのでしょう。一方で「忘れていたことが多かったが改めて聞くことで思い出して勉強になった」という声もあり、受け止め方、聞き方も人それぞれだと思いました。
なぜこんなに早く感想をもらえるのか。実は感想文はアンケートをスマホで入れる方式をとったとのことでした。時代は変わっていますね。
●「共有」は経験から
一方で感想と生徒の講演時の反応のギャップが気になりました。多くの生徒さんが感想には「面白かった」と書いてくれ、私が笑いを取ろうとするツボに多くの生徒さんが「くすっ」と反応してくれるにも関わらず、以前だったらみんなで、大きな声で笑ってくれていたのがそうはならないことに気づかされました。確かに年々反応してくれなくなっている、自分の感情を表出させない生徒さんが増えているとは感じていましたが、コロナ禍でそのことが加速していました。
そこで、最後の質問コーナーで反応してくれそうな、答えてくれそうな生徒に直接質問を促すと、そのことに刺激されてか、次から次へと質問が出て、先生たちも「あの子たちにあんなに質問をする力があったのですね」と言っていました。
精液を飲むと肌がきれいになるって本当ですか?
TENGAをどう思いますか?
お勧めのコンドームは何ですか?
オナニーはいつまでするのですか?
足ピンはやめた方がいいですか? などなど
一緒に盛り上がれない、というより、一緒に盛り上がっていいんだ、自分の気持ちをぶつけてもちゃんと周りは受け止めてくれるということを経験してもらえるような仕掛けが求められていると思いました。確かに講演中にマイクを向け、反応してくれた生徒さんの名前を聞き「〇〇君に、〇〇さんに拍手を」と言うとみんな喜んで大きな拍手をしてくれます。盛り上がることを共有する経験を仕掛けることが求められる時代のようです。
○人を許せない場合
考えさせられる質問もありました。
先生は「人を傷つけるようなことをした場合、その人は謝るしかないし、謝られた方は許すしかない」と言っていましたが、許せない場合、許されない場合はどうすればいいのでしょうか。
人と関わっているといろんな形で相手を傷つけてしまいます。もちろん私の話で傷つく人もいるでしょうし、生きていればいろんな人に、言葉に傷つけられます。一対一の関係性の場合、「ごめんなさい」で納得できない、してくれない場合は対話を重ね、双方の落としどころを見つけていくしかありません。しかし、当然のことながら相手が許してくれない場合も少なくありません。
性犯罪、ヘイトスピーチ、暴力、飲酒運転、殺人、戦争等々の被害者は加害者を絶対に許すことはできないでしょうが、残念ながら加害者は社会が決めたルール(法律、制度)で裁かれ、そのルールに則った対応を被害者側は受け入れざるを得ません。一方でそのようなルール自体が存在しなかったり、無視されたりする場合も少なくなく、その場合は、社会全体でその問題を考えなければなりません。しかし、社会自体がそのようなことを考えない、考えたくないとなっていることも事実です。
一例として、薬物使用で服役していた人が出所してあなたの隣に引っ越してきたら近所づきあいをするどころか、そのような人は自分が住んでいる社会から追い出そう、排除しようとするのではないでしょうか、と問いかけました。確かに多くの人は排除を選択するでしょうから、当然のことながらそのようなカミングアウトはしません。
今回の質問はすごく深い意味を持つ、裏を返せば、許せない、許さない、排除し続ける社会に戸惑っている若者たちを代表した質問だったと思いました。これもつながれない、一緒に盛り上がれない社会の裏返しなのかもしれません。
●盛り上がった結果?
一方で、この原稿を書いている時に盛り上がった結果の事故のニュースが飛び込んできました。10月29日に韓国ソウルの繁華街・梨泰院で起きたハロウィーンの転倒事故です。亡くなられた方、負傷された方はお気の毒だと思いますが、ニュース番組で「原因は調査中です」と報道していたのにはびっくりでした。
「地下1階の居酒屋に有名人」大勢殺到か
このような報道もありますが、いわゆる「群集事故」に原因や犯人はいるのでしょうか。Wikipediaで調べただけで、日本だけでこんなにあります。
1934年1月8日京都駅構内で海軍に入団する新兵の見送り 死者77名
1937年10月27日 横浜駅を出発する軍用列車の見送り 死者26人
1954年1月2日 皇居二重橋の一般参賀 死者16名
1956年1月1日 新潟県西蒲原郡弥彦村の彌彦神社で初詣客 死者124名
1960年3月2日 横浜市立体育館の歌謡ショー将棋倒し 死者12名
2001年7月21日 兵庫県明石市花火大会歩道橋事故 死者11名
海外に目を転じると2022年10月1日にインドネシアのサッカー場で131人が死亡した事故は記憶に新しいですが、残念ながら、盛り上がると群れ過ぎて事故が起こるリスクが高くなりますが、そのリスクを避けるために群れないと、それはまたそれでいろんな問題が出てきます。人間というのは本当に難しい存在だということを意識し続けるしかないのだと改めて思いました。