紳也特急 284号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,284  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『リアルだから響く』~

●『生徒の感想』
○『マスクを外さない、外せない日本人』
●『マスクなしがなぜ響く』
○『ChatGPTが教えてくれるマスクの効用』
●『マスクで感染が増えている?????』
〇『考えることを放棄しない』
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●生徒の感想

 岩室先生の話はとても説得力があり、コロナの感染のことなど、先生の話の中で新しい知識になったこと、元の知識を改めて確認できたことも多くあり、自分はあまり講演が好きではないのですが、今回スクリーンを使わず、私達の意見を聞きながら、話題を広げていき、とても色々なことを話しているのに、とても聞きやすく、印象に残る講演会でした。(中3女子)

 経験したか らこそ分かる人間関係や心理を知る事ができて、今まで考えたことがなかったことを考える機会になりました。(中3男子)

 冒頭にお話してた家族葬について共感しました。小さい頃に葬式には行ったことがありますがあまり覚えてません。中学生の時に1度親戚の葬式に行きましたが初めてのような感覚でとても悲しく切なくなぜ?とも思いました。その時に初めて学んだ感情でもありました。(中3女子)

 今回の講義を終えて、改めて人を今までの経歴ではなく人柄でみようと思いました、ゲイや依存症も差別的な考えはやめようと思いました。(中3男子)

 僕も大きさを気にしていたのですが、「持ち物より持ち主」で安心しました。(中3男子)

 本校の包茎代表という 異名をもらい 嬉しく 思います。岩室先生のお話は私からもお金を払いたいぐらい大切なお話でした。握手した時に手汗があったのであの時ハグをしたかったです。(中3男子)

 マジで必死に笑いをこらえた。さすがに下ネタは耐久出来たが限界で笑い狂った。やっと笑いがおさまった。下ネタに耐えるがんじょうな体にしたい。(中3男子)

 2月後半から3月にかけて中学校、高校での講演をいくつもさせてもらったのですが、以前よりすごくいい反応をしてくれました。ある高校では先生たちが「この子たちがあんなに反応するとは思ってもいませんでした」との声をいただきました。そこでふと思ったのが「マスクをしていない人の話を聞けなかった3年間」でした。私は事前に「飛沫は2メートルしか飛ばないから最前列とは2メートル以上の距離をとっている」ことや、「岩室が排出するエアロゾルを拡散するために首振り型携帯扇風機を持参していること」を説明した上でマスクを外して講演をしています。そうすると生徒さんたちは安心するだけではなく、マスクなしの岩室の表情を楽しめるようです。
 そこで今月のテーマを「リアルだから響く」としました。

リアルだから響く

〇マスクを外さない、外せない日本人
 2023年3月13日から「マスクは個人の判断で」となりましたが皆さんはどうされていますか。私は患者さんの診察時以外では、電車、屋内での買い物時を含め外しています。講演の際にマスクを外すと生徒さんの目線はまるで「人間ってこんな顔をしていたんだ」と言わんばかりです(笑)。一方で電車や屋内はおろか、屋外でもマスクを外さない、外せない日本人が多いのは何故なのでしょうか。
 多くの人から見ると、マスクをしないで電車に乗っている私は「非常識」な存在に映っていると思います。しかし、誰ともしゃべらず、パソコンで原稿を打っているだけなので、マスクで自分が排出する飛沫を気にする必要もなければ、マスクをしていないためかえって周囲の人たちにエアロゾルを吸入させてしまうリスクを下げているのです。しかも、窓が開いている近くに座り、エアロゾルの拡散、排気を意識していますが、そのように考えながら電車に乗っていることに誰一人気づかないでしょうし、「何言っているのかわからない」と言われそうです(笑)。

●マスクなしがなぜ響く
 精神科医の斎藤環先生が「対話とは、面と向かって、声を出して、言葉を交わすこと」と教えてくださっています。一方で常々「人は経験に学び、経験していないことは他人ごと」と伝えるようにしています。

 「経験」を広辞苑で調べると次のように書かれています。
 ①人間が外界との相互作用の過程を意識化し自分のものとすること。人間のあらゆる個人的・社会的実践を含むが、人間が外界を変革するとともに自己自身を変化させる活動が基本的なもの。
  ㋐外的あるいは内的な現実との直接的接触。
  ㋑認識として未だ組織化されていない、事実の直接的把握。
  ㋒何事かに直接ぶつかる場合、それが何らかの意味で自己を豊かにするという意味を含むこと。
  ㋓何事かに直接にぶつかり、そこから技能・知識を得ること。
 ②〔哲〕感覚・知覚から始まって、道徳的行為や知的活動までを含む体験が自覚されたあり方、またその状態。

 私が中高生向けの講演で、対面で、マスクなしで話すのは、単に情報を伝えるだけではなく、自分自身の失敗談を含め、自分やいろんな人の経験を伝える時、言葉だけではなく、その時の気持ちを思い出しながら自分の表情を見せながら話すことで、よりリアルに、直接的に思いが伝わると思っているからです。
 3月まで放送していた朝ドラ「舞いあがれ」で興味深い経験をさせてもらいました。最終週が新型コロナウイルス感染拡大の第1波の時期の設定で、出演者がマスクをしている場面が流れたのですが面白いほどセリフにリアル感がありませんでした。どの役柄もコロナに翻弄され、苦労をし、お互いに気遣い合う場面なのですが、マスクで顔が隠れているためか、これほどまでに感情が伝わらないのかと思いました。

〇ChatGPTが教えてくれるマスクの効用
 ChatGPTに「マスクの効用について教えてください」と入力すると次の答えが返ってきました。

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マスクには、以下のような効用があります。
1.感染症の予防:マスクは、呼吸器系の感染症の予防に効果があります。感染症の原因となる細菌やウイルスが飛沫や飛沫核として咳やくしゃみ、話し声などで放出されるのを防ぎ、他者への感染リスクを低減します。
2.環境汚染物質の除去:マスクは、PM2.5や花粉などの環境汚染物質を除去する効果があります。マスクのフィルター部分が、空気中の微小粒子を吸着して取り込むことによって、呼吸器系への影響を抑えることができます。
3.季節性のアレルギー症状の緩和:マスクは、季節性の花粉症などのアレルギー症状の緩和にも効果があります。マスクが鼻と口を覆うことによって、花粉や他のアレルゲンが体内に取り込まれるのを防ぐことができます。
4.呼吸器系疾患患者の保護:マスクは、呼吸器系疾患患者にとっても有効です。感染症やアレルギー症状の悪化を防ぎ、症状の緩和につながります。
以上のように、マスクには様々な効用があります。ただし、マスクを適切に使用するためには、正しい装着方法や使用期限などについても注意が必要です。
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 膨大な情報を集めたAI(ChatGPT)は、「他人にうつさない効果」はちゃんと示してくれますが、「マスク装着者がうつらない効果」については言及していません。

●マスクで感染が増えている?????
 マスクが装着者の感染予防になるということを否定するつもりはありません。確かに目の前にいる人がマスクをしないまま私が口を開けている時にくしゃみをしたら飛沫が私の口から入ることでしょう。しかし、多くの人はそのような場面ではなく、小さい飛沫で空気中をさまようエアロゾルを吸い込むことが何となく怖いと思っているのではないでしょうか。でも、エアロゾルは拡散すれば吸い込む量は減りますし、マスク越しで入るエアロゾルは防げても、マスクと顔の隙間から入るエアロゾルは防げません。一方でマスクの表面をウイルスが付いているかもしれない指で何度も触っている人が後を絶ちません。最近感染者数が増え始めているという指摘もありますが、もしかしたらマスクをすることで周りにエアロゾルをばらまいていることや、マスクの表面をウイルス付きの指で触っていることが感染が増えている原因ではないかと思ったりしています。

〇考えることを放棄しない
 そもそもマスクは何のため?
 この質問を掘り下げられる人と、掘り下げられない人の違いは何だろうかと考え続けている中で、コロナが広がり始めた時に、政府の専門家委員会に入っている先生が言った一言を思い出してしまいます。

 岩室先生と考え方が違いますから。

 対話にならない、対話ができないこの人が政府の専門家委員会で持論を展開し続ければ、当然のことながら「そもそもマスクは何のため?」といった基本的な議論は生まれません。
 リアルというのはある意味自分自身が直接問われる厳しい場面ですが、そこを乗り越えると思いが伝わることをリアルに接してくれた中高生が改めて私に教えてくれました。4月からもまたリアル講演が続きますが、真剣勝負と思って頑張りたいと思います。マスクのない日本を目指して。