紳也特急 283号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,283  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『同調圧力』~

●『生徒の感想』
〇『なぜ異性愛者?』
●『理解増進法案?』
○『個人の判断が基本?』
●『考えてはいけない』
○『周りに合わせます』
●『できることを考える』
○『3年後を考える』
●『同調圧力に屈しないのはなぜ?』
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●生徒の感想
 私はあまりみんなに知られていないのですが、私は男子なのですが男子のことが好きになってしまいます。今回の講演会で出てきた「ゲイ」ということですよね?私が生きていく中でどのように生きて行けば良いのでしょうか?(中3男子)

 自分は女子として生まれ、物心がついたころからあまり女子らしいことが好きじゃなく男子のように過ごしてきた時、母におかしいから辞めなさいと言われてからずっと悩んでいました。けど、今日の講演会であんまり悩むことはないのかなと思い、自信が付いたような気がしました。自分勝手な感想かもですが、岩室先生に助けられた気がします。今日はありがとうございました。(中3女子)
 
 自分で調べたり、保健の授業がないと学ぶ機会が少ないけれど、生きていく上でとても大切なことを学ぶことができてとてもためになりました。「LGBTを理解することはできないけれど、分かち合うことが大切」ということが、本当にそうだなと思い、周りの人はもちろん、自分も認めたいなと思いました。(中3女子)
 
 一番印象に残ったのが、「社会がそういう空気を作っている」という言葉でした。(中3女子)
 
 日本は空気を読むといった言葉や、忖度という言葉が流行した通り、周りと違う行動をとることが難しい国民性、文化があると思う。しかし、その文化に流されることなく、自分はなぜこの行動をとるのか、この人が発する言葉の背景には何があるのか、この行動をとることで相手に与える影響はどうか、自分はその行動をされて嬉しいのかなど自分に常に軸を向け、なぜを問い続けて考える癖をつけたいと思った。(大学2年女子)
 
 LGBT理解増進法案について国会内外で様々な議論、主張が展開されています。一方で3月13日からマスク着用は個人の判断にゆだねられることになりました。一見異なる事象のようですが、共通している根底の問題が「同調圧力」だと思いました。そこで今月のテーマを「同調圧力」としました。

同調圧力

〇なぜ異性愛者?
 ゲイの友達に「岩室さんはなぜ異性が好きなのですか?」と聞かれた時にその理由を説明することができませんでした。それ以来、「岩室は異性が好きな自分のことが理解できません。自分のことも理解できないのにLGBTQAの人について理解できるはずもありません。だから理解ではなく、お互いの存在を認め合う、分かち合うことが大事」と話し続けています。それが先に紹介した生徒さんの感想につながったと思います。

●理解増進法案?
 今の国会でLGBT理解増進法の議論が行われていますが、そもそも「理解増進」ということ自体が理解できません。「理解するのが、理解する努力をするのが当たり前」という同調圧力を感じます。一方で「自分は女と自認している男が女風呂に入ってきたらどうする」といった、法案づくりの過程でちゃん議論をすればクリアできることを取り上げ、むしろ議論を避ける方向に持って行こうとしているのではないでしょうか。そもそも、LGBTQAの方々のことを国会で議論するのであれば、人権の観点から、保健体育の教科書の中にきちんと性の多様性について記載し、さらに同性婚をはじめ、人として生きていく上での障壁を取り除く法律を作る必要があるはずです。しかし、日本では同性婚の議論は時期尚早という同調圧力があり、まずはこの辺りからということなのでしょうか。

〇個人の判断が基本?
 3月13日からマスクを着用するか否かは基本的に個人の判断となります。そのためのアドバイスとして厚生労働省のHPに次のように書かれています。

 高齢者など重症化リスクの高い方への感染を防ぐため、医療機関を受診する時、高齢者など重症化リスクの高い方が多く入院・生活する医療機関や高齢者施設などへ訪問する時、通勤ラッシュ時など、マスクの着用を推奨します。
 新型コロナウイルス感染症の流行期に重症化リスクの高い方が混雑した場所に行く時については、感染から自身を守るための対策としてマスクの着用が効果的です。
 
 マスクをすれば医療機関、高齢者施設、通勤ラッシュで出会う高齢者など重症化リスクの高い方への感染を、リスクの高い方が感染することを防げるとのことです。本当でしょうか。

●考えてはいけない
 今でもマスクを徹底しているのに医療機関や高齢者施設でクラスターが出続けていますが、そのことがほとんど報道されない、議論にさえならないのはなぜでしょうか。マスクをしているのにクラスターが発生するということは、マスクでは予防ができない感染経路対策が不十分だったということです。でも日本社会ではマスクが役に立たない場合があることについて、考えてはいけない、指摘してはいけない、議論をしてはいけない空気、同調圧力が存在しています。
 ある講演会の感想で高校生が「これから考えることを放棄しないようにしたいと思いました」と書いてくれましたが、確かに大人たちは「ぐずぐず言っていないで、大人が言うことを聞いて従っていればいい」ということを子どもの頃から子どもたちに叩き込んでいますよね。
 
○周りに合わせます
 3月13日以降、皆さんはマスクの扱いをどうしますか?「周りに合わせます」「周りの状況を見ながら決めます」という方が圧倒的に多く、同調圧力にとりあえず抵抗しないことを選択した結果だと思います。その選択を否定するつもりはありませんが、「周りに合わせる」という選択をする方は「周りに合わせない」という選択をする人が、なぜ合わせないのか、マスクを外している時に、どのような、自分が感染しない、自分から他者を感染させない対策を取っているかをぜひ考えてみてください。もっとも考えずに外す人も少なからずいるでしょうが・・・・・

●できることを考える
 岩室紳也は3月13日以降も講演会、研修会、診療がありますので、臨機応変に、ご一緒させていただく方への感染症対策を伝える手段としてマスクを扱いつつ、外したいと思います。既に実践していることですが、具体的に言うと次のようになります。
 
★挨拶時
・初めて会う方にはマスク姿でご挨拶
・すぐにマスクの意味を説明して外します

★講演会、研修会の場面
・最初はマスクで登壇
・講演の中で飛沫は2メートル先に落下、エアロゾルは空気の撹拌と排気が基本。距離があり、サーキュレーター代わりの小型扇風機を使っているのでマスクは不要と話します。
 
★診療の場面
・マスクで対応(病院の決まりなので)
・患者さんから聞かれたら、外してもいい理由を説明。直接向き合わなければ飛沫はお互いの顔(口、鼻、目)にかからない。エアロゾル対策として、診療室のエアコンの送風を下向きに固定して患者との間にエアカーテンがある状態にして、空気は部屋の両側のドアの下から排気。ベッドに寝かせたお子さんの診察を話しながらする際にはマスクは着用。

★屋内、電車等で
・マスクなし。
・飛沫を他者の顔(口、鼻、目)にかけない。
・咳が出る時は咳エチケット(肘で飛沫を受け止める)。
・新幹線、飛行機等で横に人がいる際には携帯型扇風機で空気の流れを創出。

〇3年後を考える
 中学3年生に話した時、ふと「3月13日以降もマスクを着け続けたいという人は、ぜひいつまでマスクをし続けるのかを考えてみてください」と問いかけてみました。もちろん、気が付けば新型コロナウイルスが消え、コロナ禍前の状況に戻ることがあればその時は外せるのかもしれません。しかし、そうならない時、マスクを外せないまま、3年後、高校を卒業し、就職試験、面接試験となった時、「私はとにかくマスクは外せません」と訴えるあなたを果たしてその職場は採用してくれるでしょうか。
 
●同調圧力に屈しないのはなぜ?
 中学生に「岩室さんはどうやって同調圧力に屈しない力を身につけたのですか」と聞かれました。その時思い出したのがケニアの小学生時代に「イエロー」といじめられていた時の経験でした。確かにいじめる人たちがいて、その人たちが集団になっていたのですが、それも同調圧力だったと思います。でも、その中で私に寄り添ってくれるドイツ人のクレメントという友人がいました。自分がいじめという同調圧力に押しつぶされなくて済んだのは、それに立ち向かってくれる友人がいたからでした。その経験から同調圧力には屈したくないと思うようになったようです。
 同調圧力は決してマスクだけの話ではなく、様々な問題の根底に流れている、考えることを放棄するというリスクの結果だと思っています。そのようなリスクを克服するため、私は3月13日にまずはマスクを外すことからコミュニケーションの機会を増やしたいと思っています。皆さんはいかがですか?