紳也特急 289号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,289  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『権利とrights』~

●『生徒の感想』
○『権利とrightsの違い』
●『選択できるか否か』
○『個人の選択、rightsを奪う他者の価値観』
●『床オナとrights』
○『選択ができる環境の確保を』
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●生徒の感想

 保健体育でエイズ、性感染症について学びましたが“自分の身を守るため”と言われたとき、正直言って全然ピンとこなかったです。性的行為を自分が将来するとは思えない。だからエイズにはかからないだろうと思っていたので他人事のように効いていました。ですが、今回岩室先生のお話を聞いて、自分にもかかる可能性は大いにあるんだ。知っておくことはとても大事なんだ、と思えました。(中3女子)

 岩室紳也さんは性行為という公共の場では言いづらい話において、多くの人が勘違いしていることに対して、何とかマスコミを通して正しい知識を伝えようとしている姿に感動し、自分もそういう人になりたいなと思った。(高2男子)。

 男女合同で性教育お行うことがなかったりして、日本は性教育に抵抗があるみたいな話をこの間テレビで取り上げられてて、自分自身も男子のことについて全くと言っていいほど知らなかったり、抵抗があったので、そういう講演が行われる機会があったらいいなと思ってたら、ちょうど行われて、いろいろなお話がきけて良かったです。(高2女子)

 新型コロナ対策の感染経路の話で、言われたら確かそうだなと思ったこともあったので、どんどん広めて欲しいです。(高2男子)

 マスコミは問題の根本(例えばコロナはどこから来ているのか)をとらえないで報道をしていると感じていた部分があったが、それが今回きれいに言語化されて、とてもすっきりした。マスコミは科学情報を得る場ではないというのに納得した。今日の話を頭に刻みたい。(高2男子)

 先月、日本思春期学会の「男子のリプロダクティブヘルス・ライツ」というシンポジウムに登壇させていただきました。私に与えられた演題は「ポストコロナ時代に考える男子のリプロダクティブ・ライツ」。この分野のことをご承知の方は「リプロダクティブヘルス・ライツ」というのはこれまで女性の問題として議論されてきました。しかし、今回、「男子」「男性」という視点で切り込みたいということで自分なりにいろんな角度から考えてみました。この投げかけから本当に多くの学びを得ましたので、今回のテーマをズバリ「権利とrights」としました。

権利とrights

〇権利とrightsの違い
 多くの人は「権利」と「rights」は単に日本語と英語の違いではと思っていないでしょうか。小学校6年間を英語圏のアフリカのケニアで過ごした経験から、何となくそれぞれの言葉から受けるイメージが違うなと思いつつ、多くの日本人に合わせて深く考えないようにしていました。しかし、Maslow’s hierarchy of needsがマズローの欲求5段階説と誤訳されていたことに気づかせてもらってから、日本語と英語のニュアンスの違いを意識しつつ、言葉の意味の違いから文化の違いをも考えるようになりました。
 広辞苑で「権利」を調べると次のように書かれています。
?一定の利益を主張し、また、これを享受する手段として、法律が一定の者に賦与する力。
?ある事をする、またはしないことができる能力・自由。
 一方でOxford Dictionaryで「right」を調べると[countable, uncountable] a moral or legal claim to have or get something or to behave in a particular wayと書かれています。
 「主張」と「claim」は一見同じように思われますが、「claim」はどちらかと言うと「主張」というより「要求」のように思っています。さらに「享受」はかなりレベルの高い話ですが「have or get」は結果的に手に入ったか否か、すなわち選択できたか否かという話ではないでしょうか。

●選択できるか否か
 思春期学会のシンポジウムを掘り下げるべく、先月開催された第30回AIDS文化フォーラム in 横浜で思春期学会のシンポジウム「男子のリプロダクティブヘルス・ライツ」の登壇者によるトークセッションを開催しました。そこで学ばせていただいたことは、rightsとは選べる、選択できることだということでした。
 これまで自分自身がrightsを正しく理解できていないかった理由は「権利」と言うと「義務」が付いてきたからでした。すなわち何らかの権利を主張するにはそれ相応の義務を果たす必要があるという刷り込みが正しい理解を妨げていました。しかし、rightsは選択できることと理解できるといろんなことが腑に落ちました。
 例えば日本では異性愛者は「結婚」という制度を選択できます。しかし、なぜ同性愛者は「結婚」という制度を選択できないのでしょうか。そもそも他人だった二人が、一緒に生活をし、財産を一定程度共有する結婚制度というのは、その二人やその子どもたちの様々な生活を安定させ、保障するための制度です。なのにどうして「同性愛者」というだけでその選択をすることが出来ないのでしょうか。

〇個人の選択、rightsを奪う他者の価値観
 同性愛者が結婚制度というのを享受できない理由は明らかで、「同性愛」を認めたくないという人たちの価値観でしかありません。そのような価値観を持つこと自体を否定するつもりはありませんが、「価値観」と「rights」を同レベルで考えていいのでしょうか。
 一方で民主主義は多数決で決まるので、ある意味価値観の争いと言えます。ただ、大事なことは「価値観」を超えたものとして認めなければならないのが「rights」、「権利」、「人権」のはずですが、いまだに根強い人種差別を含め、「rights」、「権利」、「人権」を浸透させることは実は至難の業なのです。

●床オナとrights
 難しい話はさておき、思春期学会のシンポジウムで一番の議論は「床オナ」でした。
 読者の中の男性にお聞きします。「あなたはどうやってオナニー、マスターベーションを覚えましたか」。おそらく多くの男性は「自然に」と答えるでしょうから、「どのような状況を自然と表現されているのでしょうか」と切り込むと「覚えていない」となるのではないでしょうか。
 岩室紳也がオナニー、マスターベーションを覚えたのは桐蔭学園の寮生活でした。同室の仲間から「岩室、オナニーって知っているか?こうやるんだ」と布団越しでしたが何となくやっていることが理解できました。しかし、イマドキの男子はそのような話を仲間とすることはありません。では、どこで、どのような場面でオナニー、マスターベーションを覚えればいいのでしょうか。ある意味自然な形で、朝立ちをした際にベッド等にこすりつけ、結果的に射精ができ、それをオナニー、マスターベーションと思ってしまうのです。では、正しいオナニーを知る、学ぶrightsというのをどう考えればいいのでしょうか。

〇選択ができる環境の確保を
 少子化が問題視されているにもかかわらず、国会では次のような議論はありません。
 
 A議員:総理、厚生労働大臣、文部科学大臣に伺います。手を使った正しいマスターベーションができない若者が増え、床オナ率が増加していることで膣内射精障害による不妊症が少子化の原因の一つという指摘があります。仲間でマスターベーションを教え合う環境がなくなっているのであれば、教科書等に正しいマスターベーションの仕方を記載し、保健体育の中で教える必要があるのではないでしょうか。
 K総理:様々な立場のご意見をお聞きした上で、慎重に検討し、善処したいと思います。
 
 正しいマスターベーションとは何かを知り、それを選択するか否かを自分自身で決定できるための環境整備こそが今の若い世代のrightsではないでしょうか。床オナ注意報発令中を訴え続けましょう。