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■■■■■■■■■■■ 紳也特急 vol,290 ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『インフルとコロナはどう違う?』~
●『生徒の感想』
○『なぜ季節外れのインフル?』
●『加湿が効果的な理由』
○『コロナの後遺症は侮れない』
●『免疫持続期間の違い』
○『これからのウイズコロナ、ウイズインフルを考える』
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●生徒の感想
先生がおっしゃられたように、正しい感染経路を理解していればマスクよりもずっと有効だという話は新鮮でした。とりあえずマスクをしていればいいんだなと思っていたので、正しい感染経路を知ることから始めようと思います。(高2女子)
今日の講演をきいて、ウイルスが少し体内に入っただけで感染するわけではないということが初めて知ったことだったので、自分が正しいと思っていた知識はもしかしたら違うかもしれないという意識をもって過ごしたいです。極端にいろいろ避けるのではなく、体内に入ってくるウイルスを減らすという感染対策はまだ浸透していないけどとてもいいなと思いました。(高2女子)。
日本人はまわりに合わせる民族なので、何かを広めたりしたいときは、誰かが一人行動を起こして、ゆっくり変えていくしかないと聞いて、自分もまわりに流されずに考えて行動しようと思いました。(高2女子)
感染症に関して、考えれば納得できることも多くて面白かったです。(高2女子)
私はいつも見ているテレビが完全なものだと思っていたし、教科書に書かれていることで十分な知識が得られると思っていました。しかし、先生がおっしゃっていたことのほとんどを知りませんでした。改めて情報を正しく知る大切さを知ることができました。今後は伝えられている情報以外に知っておくべきことはあるかを考えながら生活していこうと思います。(高2女子)
今までのコロナに対する常識とは違う話をしてくださって、普通に考えたら当たり前だったけど、今まで考えたことなかったことを考えることができてよかったなと思いました。また、日本人の性格(同調圧力とか)が原因となって、今現在起こっていることがたくさんあると感じました。(高2女子)
「考えたことがなかった」という感想をよくいただきます。インフルエンザが9月なのに目立って増えていますが、「なぜ、今なのか?」という話も聞きません。一方でテレビに登場される先生方は「これからの季節は乾燥が進みますからインフルエンザが広がりやすくなります」とコメントされていますが、「なぜ乾燥が進むとインフルエンザが広がりやすくなるのか」の説明はありません。ちょうど一年前の278号で「インフルエンザに学ぶ」を書かせていただきましたが、新型コロナウイルスの出現で感染経路等々について様々なことがより詳しくわかってきた一方で、インフルエンザと新型コロナウイルスの共通点や違いが必ずしも理解されていないようにも思います。そこで今月のテーマを「インフルとコロナはどう違う?」としました。
インフルとコロナはどう違う?
○なぜ季節外れのインフル?
今回のタイトルを考える前に、そもそもなぜ日本の、北半球のインフルエンザが冬場に急増し、夏場はほとんど患者がいないのに、東南アジアでは年中同じ程度の感染者がいて、南半球では流行はほぼ逆のパターンなのに年中それなりに感染した人が確認されるのでしょうか。
北半球では年末年始から春にかけて、クリスマス、忘年会、お正月、新年会、春節、歓送迎会と人が集まり、お互いにインフルエンザをうつし合う機会が増えます。実際、2009年の夏場に流行した新型インフルエンザがその翌年から他のインフルエンザと同じような流行の仕方をしたのも、翌年の抗体検査の結果から、他のインフルエンザ同様の抗体保有率だったことが証明されています。
裏を返せば、冬場にしっかりみんなが密になり、多くの人が感染して抗体を、免疫を持っていなければ今年のように集団免疫が早く切れ、夏場からインフルエンザが流行しても全く不思議ではありません。
●加湿が効果的な理由
これまで、インフルエンザやいわゆる風邪と呼ばれていた他のコロナウイルス感染症の予防に「加湿が有効」と言われてきました。私もなんとなく「のどの粘膜を保護するのだろうか?」と素人的に考えていましたが、新型コロナウイルスのお陰でその理由が科学的、視覚的に紹介されました。
富岳で( https://www.youtube.com/watch?v=QOzGDi5waJQ :15:26以降)湿度が低いと小さな飛沫(エアロゾル)が増え、湿度が高いとすぐ落下する大きな飛沫が増えます。すなわち、加湿することで浮遊するエアロゾルが減ります。また、加湿とエアロゾルの関係が明らかになったことで、インフルエンザの感染経路としてエアロゾル感染を意識する必要性が再確認されたと言えます。
ただ、これまでインフルエンザ対策として行われてきた加湿は冬場の暖房との併用だったので何となく受け入れやすかったのですが、年中流行するコロナや夏場のインフルエンザ対策としてどこまで受け入れられるかは未知数ですし、いろいろ考える必要があるようです。
○コロナの後遺症は侮れない
コロナ禍の最中、多くの人がコロナの後遺症のことを気にしていましたが、今はどうでしょうか。いつも「人は経験に学び、経験していないことは他人ごと」と言っていますが、本当にその通りだと思いました。というのも、私の仕事仲間でまだ40代の方が少し前に新型コロナウイルスに感染し、未だに味覚障害が残り、体のだるさを訴え続けています。もはやコロナはただの風邪になったと言い切っている人もいますが、決してそうではありません。感染予防を、発症予防をこれからも徹底し、体内に取り入れるウイルス量を少しでも減らす工夫をし続けたいと改めて思いました。
●免疫持続期間の違い
2022年の年末から増え始めたインフルエンザは例年ほどの流行ではありませんでしたが、定点当たりの感染報告数はちゃんとした波になっていました。その後夏場にかけてインフルエンザは例年ほど減少しませんでしたし、コロナ禍前より早く9月になってから急増し、夏休み明けの学校で学級閉鎖、学校閉鎖が相次いでいます。
一方で新型コロナウイルスは9月になってやっとピークを超えましたが、第8波までの状況を見れば、減少したかと思うとまた増加に転じ、インフルエンザのように低い状況が続く期間がほぼないことが見えてきました。すなわち、感染が広がることで得られる個人の免疫力はもちろんのこと、集団の免疫力もインフルエンザほどは長く持続しないようです。
ちなみにインフルエンザが冬場にしっかり流行し、集団免疫を獲得した年を見ると、約26週間、約6か月は集団免疫が持続されていました。
○これからのウイズコロナ、ウイズインフルを考える
コロナ禍前の日本人はインフルエンザに対して、あまり意識することなく、というか意識していなかったからこそ結果としてウイズインフルができていました。ワクチンをする人、マスクをする人、加湿をする人がいつつも、結果的に冬場の感染拡大を、3,000人前後が亡くなることを容認しつつ、集団免疫を獲得して夏場を乗り越えていました。
ところがコロナ禍で日本人が選択したのは「とにかく予防」でした。その結果、今年のインフルエンザが示しているように中途半端な免疫の獲得につながり、結果的にはインフルエンザが短い周期で流行する状況となっています。もちろん新型コロナウイルスが流行を繰り返している状況は言うまでもありません。
実は岩室紳也は医者になってからこれまで、一度もインフルエンザのワクチンを打っていませんし、インフルエンザを発症したこともありません。もちろん「感染したことはない」と言っているわけではありません。私はこれからのウイズインフルも、ウイズコロナも、とにかく体内に入れるウイルス量を減らし、上手く行けば感染予防になり、仮に感染したとしても発症が予防できることを期待して、できるだけの感染予防対策を心掛けつつ、多くの人との交流を楽しみたいと思っています。皆さんはどうされますか?