紳也特急 295号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,295  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『多様性って何?』~

●『生徒の質問』
○『認めていないから認めよう?』
●『多様性の意味』
○『岩室紳也の回答』
●『多様性とdiversityの違い』
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●生徒の質問

 「なぜ医者になったのですか?」
 
 「人とうまく話すにはどうすればいいですか?」
 
 「先生にとって多様性って何ですか?」
 
 このような質問を受けた時、皆さんならどう答えますか。
 
 卒業前のこの時期に講演を依頼されることが多いのですが、講演終了後にこのような質問がひっきりなしに続き、うれしくなります。相変わらずマスクをしている生徒さんが半数以上という現実の中で、20年後にこのコロナ世代で引きこもり、自死が顕著になり、少子化どころか結婚ということが過去の人たちがしていたこととならなければと懸念しています。一方で自分なりに考え、その思いをぶつけてくれる生徒さんにこそ、他の生徒さんが学んで欲しいという思いで返事を返しています。
 「なぜ医者に」というのは私の講演があまりにも医者らしくないと映るからでしょうか。医者になったのはある方に勧められ、「No」と言えず、気が付けばこんな仕事をしていました。「うまく話す」は講演が聞きやすかったからでしょうか。いつも意識していることが「対話」で、自分の思いを押し付ける「会話」にならないように心がけるといいですよと話しています。いろいろあった質問の中で特に印象的だったのが多様性についての質問だったので、今月のテーマを「多様性って何?」としました。

多様性って何?

○認めていないから認めよう?
 「先生にとって多様性って何ですか?」と質問してくる生徒さんがいた時、皆さんはどのような思いでその生徒さんに向き合うでしょうか。一見すると自分の身体的な性とは異なる性自認をしているようにも見えたのですが、実はそれは私にとってどうでもいいことでした。
 そもそもこの生徒さんがなぜ岩室にこのような質問をしたのか、気になりませんか。私は講演の中で、ゲイだということを知らなかった男性の友人が私に自分のセクシュアリティをカミングアウトした時、自分自身のセクシュアリティに向き合っていなかった自分自身の経験談を紹介していました。この生徒さんがその話をどう受け止めたかはわかりませんが、おそらく「多様性を認めよう」「多様性を理解しよう」という声が非常に大きい中で、岩室は一言も「認めよう」とは言わず、はっきりと「岩室は理解できない」と他の人とは違った見方を伝えたのでそこを聞いてみようと思ったのではないでしょうか。
 そもそも「認めよう」ということは「認めていない人が多い」の裏返しですし、認めていない人が多数派だから「認めてあげよう」という上から目線の、他人ごとの発想が生まれるのだと思います。世の中には理解できないことが多い中で、理解できるという発想自体が変です。

●多様性の意味
 「多様性」の英訳はdiversity、variety、multiformity、multifariousness、manifoldnessですが、広辞苑で「多様性」は出ていません。
 Oxford English Dictionaryでdiversityを調べると“The quality, condition, or fact of being diverse or different; difference, dissimilarity; divergence.”とあります。
 ChatGPTに「多様性とは」と聞くと「さまざまな要素や特性が存在することを指します。これは人々や事物、思考や意見、文化や言語などが異なることを包括しています。多様性は、個々の違いを認め、尊重し、受け入れることを重視する考え方や価値観を表しています。社会全体や組織、グループなどにおいて、異なる背景や経験を持つ人々が共存し、相互に学び合うことが重要であるとされています」と回答してくれています。怖いと思いませんか。「認め、尊重し、受け入れることを重視する考え方や価値観」があたかも正しいかのような説明です。
 Copilotでは、「多様性とは、人や物事がさまざまな種類や特徴を持っていることを言います。例えば、人の多様性とは、性別や年齢、国籍、価値観など、人々がそれぞれ違う属性や思考を持っていることです」との回答でした。

○岩室紳也の回答
 先ほどの生徒さんに私は次のように返事をしました。
 
 あなたと私は全く違う人間です。われわれの周りにいる一人ひとりもわれわれと全く違う人間です。性が違う人もいれば価値観が違う人もいます。すなわち私にとっての多様性というのは事実としてそこに存在していることでしかありません。LGBTQ+について「多様性を認め、理解しましょう」という人がいますが、その考え方に私は違和感を覚えます。正直なところ私はLGBTQ+の人のことは理解できません。と同時に、私自身は異性愛者ですが、なぜそうなのか理解も説明もできません。さらに言うと、異性ならだれでもいいかというとそうではないのに「異性愛者」という言い方も実は変だと思っています。
 一方で私は医者です。LGBTQ+の人たちのことが理解できなくてもHIV(エイズウイルス)に感染しているゲイの方の診療もしていますし、FTM、女性から男性に性転換した人の、MTF、男性から女性に性転換した人たちのホルモン療法はさせてもらっています。これは医療技術提供者として当然のことだと思っていますが、それをしてくれる医者が少ないのも社会の現実です。
 
 いかがでしょうか。こう答えたのは次のような考えに基づいてです。
 
●多様性とdiversityの違い
 日本ではdiversityという言葉も「多様性」と同義語として使われていますが、違うということはお判りいただけたのではないでしょうか。英英辞書にあるように、diversity、違いは事実、factでしかありません。他人が認めるとか認めないといった判断が入ることではありません。色覚異常がない人にとって、赤と黒の違いのように。すなわち、日本でいう多様性とは、「他者が認めなければならないもの」のようですが、英語で言うdiversityとは「他者がその存在を認めたり、理解したりしなくても、そこに事実として存在するもの」です。
 LGBT理解増進法なるとんでもない法律ができましたが、私はLGBTはもとより、自分自身も理解できません。皆さんはいかがですか?