「相談して」という正解依存症

 「デートDV」という言葉が使われるようになったのはいつからでしょうか。2001年4月、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(以下、DV防止法)が制定され、同年10月より施行されました。その後、多くの方々が配偶者間だけではなく、恋愛関係の中でのDV(domestic violence)を予防する必要性を訴え、様々な活動や資料が打ち出されてきました。しかし、正直なところこれまで私が目にしてきた予防方法は残念ながらきれいごとの羅列、正解依存症の方々が思いついたものとしか思えませんでした。ただ、不思議なことにおっしゃっていることが「正解」なだけに、誰も文句も言えず、「そうだよね」となっていないでしょうか。
 内閣男女共同参画局の「デートDVって?」を見てどう思いますか? 確かにその通りなのですが・・・・・

 恋人のことを「怖い」「息苦しい」と感じているあなたへ
 でも、「好きだから」「嫌われたくないから」という気持ちが先立って、自分では暴力と気付けないこともあります。
 暴力にはサイクルがあり、巻き込まれると簡単には抜けだせません。サイクルが繰り返されるうちに、暴力が激しくなり、逃げる機会や気力を奪われてしまいます。
 女性の約5人に1人は交際相手から被害をうけたことがあります!

 そして相談窓口が紹介されています。

 でも、横浜市鶴見区で2023年6月29日、18歳の女子大生が包丁で刺されて殺害される事件が起こりました。ご遺族はたまらない状況に追い込まれます。

 もっともこのような事件はこれまでも何度も繰り返されてきましたが、繰り返されているということは予防に関する普及啓発や周知徹底はもちろんのこと、一次予防(未然防止)も二次予防(早期発見早期対応)も適切ではなかったということです。
 こう書くと「どうすれば予防ができたのか教えろ」とお叱りを受けると思いますが、簡単ではないからこそ、これだけすれば絶対に防げるという正解がない現実を受け止めることから始めなければならないのですが、こう反論する人は「正解」を盾に突っ込んでおられることをまずは自覚していただきたいと思います。

 この事件の直後、ある女性と話をしていたら次のように告白されました。

 実は私も20年近く前、同じような経験をしていました。当時はデートDVと言った言葉はありませんでしたが、付き合っていた彼が暴力を振るうようになり、別れようとすると急に反省し、すごく優しくなるといったことを繰り返していました。今でいう典型的なデートDVのパターンでしょうが、当時の私は逆に私が彼のことを支えなければならないという思いになっていたようです。とはいえ、そのストレスで大学を留年することになったり、生活にも支障を来したりしていました。当然のことながら親はもちろんのこと、周囲の友達も心配してくれていましたが、後になって言われたのが「あの時は〇〇〇に何を言っても聞く耳は持たないと思い、ただただ寄り添うしかないと思っていた」とのことでした。私も今になって思えば「彼と別れた方がいい」と言われても帰って逆上していたと思います。
 留年もし、自分自身もやつれていくのがわかった頃、親ともつながってくれていた友達や親の声掛けでやっと自分自身の重い腰を上げることができました。その勢いで相手の家を訪ね、携帯を取り返し、帰ろうとしたら自分をめがけて電気ストーブが2階から飛んできました。運よく当たらなかったのですが、それで何とか別れることが出来ました。
 もちろん、その後、彼が今回の犯人と同じように執拗だったらそれこそいま生きてこうやって岩室さんと話をしていなかったかもしれませんが、その点は運が良かったのか・・・・・

 中学校や高校で性教育を依頼された時、デートDVの話を盛り込んで欲しいという依頼が多いのは事実です。「人は経験に学び、経験していないことは他人ごと」の原則に立ち返り、今回聞かせていただいた方の経験を通して、生徒の皆さんに何かを感じてもらえればと思っています。
 貴重な経験を話してくださった〇〇〇さんに感謝です。

正解がないのが対話

ブログ「正解依存症」の目次