「紳也特急」カテゴリーアーカイブ

紳也特急 257号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『新型コロナウイルス対策のブレイクスルー』~

●『中学3年生の感想』
○『ブレイクスルーとは』
●『「感染経路」が議論にならない理由』
○『感染経路、感染者は犯人ではない』
●『感染経路別にできること』
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●中学3年生の感想
・コンドームは正しく使用していても破けてしまうことがあること知りました。大人でもあまり知っている人の少ない知識を知ることが出来ました。
・性教育で気持ち悪くなかったのは初めてです。
・今日の講演会はおもしろく場が和んでいたのでとても岩室紳也先生の話が聞きやすかったです。性の話などもとても良かったのですが、実際に岩室さんが経験した話や、かんじゃの話など色々と学べるお話をしてくださったのがとても印象に残りました。今までの講演の中で一番聞きやすい、かつとても学ぶことが多い講演でとても満足した講演会になってよかったです。
・今回は笑いを交えた講演会だったので楽しく聞くことが出来ました。Love(大切)の反対は無関心ということも初めて知れました。人は依存するのではなく、人との絆を結び、初めて自立できるといった自分のいままでの考えを一新するようなことも学ぶことができたのでよかったです。
・画像や映像を使わず、声だけでものすごい情報を伝えるのはすごいし、耳からの情報なのでとても覚えやすいし、分かりやすかったです。

子どもたちにとっての性教育は、大人たちにとっての新型コロナウイルス教育と同じです。その生徒さんへの性教育ですが、生徒さんに直接、マスクなし(もちろん2メートル以上の間隔を取り、かつ小さな声)で講演する機会を大人への新型コロナウイルス教育を兼ねて徐々に復活させています。昨年は3月1日からの講演がすべてキャンセルになるとんでもない年でしたが、今年はそのようなことがないことを祈っています。何より、緊急事態宣言が発出されたにもかかわらず、新型コロナウイルスに感染している人が連日のように「過去最高」と言われる中、首相の「静かな年末年始」のお願いではウイルスは抑えられません。分科会の尾身会長が力を込めて指示棒を振り上げても、感染拡大が止まらない状況が何より国民の実情を物語っていると思いませんか。
では、いま、何が求められているのでしょうか。2020年1月号は「HIV対策のブレイクスルー」ということで書かせていただいたので、2021年1月号は「新型コロナウイルス対策のブレイクスルー」としました。

新型コロナウイルス対策のブレイクスルー

〇ブレイクスルーとは
Oxford Dictionaryでbreakthroughを調べると“A sudden, dramatic, and important discovery or development.”とありました。研究社 新英和大辞典第6版でbreak throughを日本語に訳すと「(壁などを)突破する。(努力の末に)大きく前進する、大発見をする。」とありました。
確かに、今の日本は流行語大賞を獲得した「3密」神話が根深く定着し、大きな「壁」となっています。年末に行きつけの飲み屋さんで飲んでいたら隣の方が「COCOAを入れていますか?」と話しかけてこられたので、素性を明かし、そのお店の感染予防対策に関わらせていただいている旨を紹介させていただきました。このように国民一人ひとりの中で、何を「(努力の末に)大きく前進」させればいいのでしょうか。

●「感染経路」が議論にならない理由
2020年12月31日にNHKのニュースで「バスツアー 休憩中の換気や車内の食事禁止を 国立感染症研究所」というのが流れました。「接触」「マイクロ飛まつ」という言葉が使われているため、一見「感染経路」についてきちんと議論をしているように思ってしまいます。しかし、「乗客と乗務員は常にマスクを着けていたことから、報告書では、さらなる感染対策として、頻繁に触れる場所を中心に清掃や消毒をし、休憩時の換気や、軽食を含めた食事の禁止といった対応を取ることが望ましいとしています」とあります。マスクをすることでかえって「マイクロ飛まつ(エアロゾル)」の排出が増えるので、本気でマイクロ飛まつ(エアロゾル)対策をするのであればマスクをしないという選択肢も提示すべきですができていません。
さらに、これだけの人が感染したということは、どこかの旅館の調理人が無症状の感染者で、ポリウレタンマスクやマウスシールドで調理をしていた可能性を抗体検査等でフォローしたのかということが気になります。でも、保健所の方々に聞いてもそのような調査をしている余裕も、予算もないのが実情です。

〇感染経路、感染者は犯人ではない
HIV/AIDSに初期の頃から関わる中で、自分自身の反省を込めて振り返ると、「感染経路」という言葉を使いながら実は「感染者」を見ていた時期がありました。さらに「感染者」という言葉を使うこと自体、適切に「感染経路」を捉えていないことに気づかされた場面がありました。
ある時、次のような指摘を受けました。「岩室先生のご家族がHIVに感染していたら他の人にどうその事実を伝えますか?」と。私には妹がいますので、「妹はHIV感染者です」ではなく、「妹はHIVに感染しています」と言うのにも関わらず、どうして統計数字等を語る時は「感染者」という呼び方になるのかという指摘でした。
「感染」というのはあくまでもその人の現状です。その人がどのような経路で感染されたかを丁寧に学ぶ必要があります。大人がHIVに感染する経路はセックス、輸血、薬物の廻し打ち、刺青となります。科学的にとらえ、適切な、効果的な啓発活動が求められていたにも関わらず、多くの人たちが「不特定多数とのセックス」といった修飾語をつけて、誤解を招き、偏見を助長する啓発をしていました。「不特定多数とのセックス」を声高に叫んでいた人たちは、まるで今の政府や専門家のように「夜の街や接待を伴う飲食店」と脅している人たちと同じでした。

●感染経路別にできること
緊急事態宣言の前から、それこそ3密という言葉が使われる前から感染経路別対策を確認し続ける重要性を指摘し続けています。それが日本全体でできていない理由は「犯人」を探し出し、自分はカヤの外に置きたい他人ごと意識のなせる業のようです。となると今求められているブレイクスルーは、改めて感染経路別にできることを再確認することです。

飛沫感染対策:相手の顔に、料理に飛沫をかけないために不織布マスクを使用し、マスクの表面は触らない。
エアロゾル対策:排気に向けた空気の流れを創出し、可能な範囲でマスクを外す。
接触(媒介物)感染対策:口に物を入れる直前の手指衛生を徹底し、他人の料理に飛沫をかけない、料理食器は他人から遠くに置く。
唾液感染対策:キスの前後に何かを飲むか、覚悟のキス。

一見シンプルなことのようですが、エアロゾル対策でマスクを外すことや、不織布マスク以外は単なるポーズだということは大きなブレイクスルーです。ここにたどり着くまでに紆余曲折もあり、これからも修正の連続だと思っています。ぜひ「犯人探し」の発想から抜け出し、一人ひとりができることを徹底する1年にしたいですね。私はできることを重ね続けたいと思います。

本年もよろしくお願いします。

紳也特急 256号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『新型コロナウイルスに見るヘイトスピーチ』~

●『高校2年生の感想』
○『ヘイトスピーチとは』
●『気の緩みで感染拡大?』
○『換気の専門家は役に立たない』
●『マスクではなく不織布マスクを』
○『直前の手洗いを』
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●高校2年生の感想
・今回の講演はパワーポイントなどを使わず耳でしっかり聞く講演だったので、より頭に入ってきた。(男子)
・先生のぶっちゃけた話を聞くと、今までは恥ずかしいことだと思っていた性の話も別に恥ずかしがることじゃないし、もっと友達と気軽に話せるような内容であってもいいんだなと思いました。(男子)
・さまざまな話を聞いていく中で、人間の本質を考えて物事を捉えている人だと分かった。(男子)
・自分の経験則に伴って、色々な知識を人に教えることができて、すごいと思う。さまざまな話を聞いていく中で、人間の本質を考えて物事を捉えている人だと分かった。軽率に考えていることが取り返しのつかないことになるということは分かっているつもりだったけれど、話を聞いていると改めて考えさせられた。(女子)
・自分が今まで思っていた、固定概念というものも今日の講演を通してもう一度考え直すべきところがあるなと思うことが出来ました。(女子)
・中学3年生の時にも私の行っていた中学校に来てくださり、お話を聞くのは2回目だったのですが、前に聞いた時と今回聞いたのとでは感じ方がちがくておどろいた。(女子)
・私は今までウイルスの8割ほど空気中をさまよっていると思っていたのですが、飛んだ後、床に落ちていることを今日初めて知りました。(男子)
・マスクをつければけっこう予防になると思っていたけれど、そこまで簡単なことではなくて、一長一短があり、マスクをつけているからといってしっかり予防されているわけでないことを知った。細かく考えることで、一般的に言われているようなこととは違った結果が見えてくる。(女子)

 高校生を対象とした性教育の講演会として呼ばれてはいるものの、このご時世なので新型コロナウイルスの話を盛り込むと食いつきが違います。どうしてそんなに食いつきがいいのかを考えながら話していると、実は彼らがマスコミやわかった気になっている大人たちからトップダウンの感じで「マスクをつけろ」、「手を洗え」、「換気をしろ」、「3密を避けろ」と言われていたからだと気づかされました。これらの言葉は一見合理的に見えるのですが、できていない人を排除、否定するような雰囲気です。しかし、私の話は、できる人が、できることを、できるようにするにはどうすればいいかをただただわかりやすく伝えているだけなので、高校生にはストンと腑に落ちるようです。このやり取りの中で気づかされた新型コロナウイルス関連で発せられているヘイトスピーチの数々を何とかしなければなりません。そこで今月のテーマは「新型コロナウイルスに見るヘイトスピーチ」としました。

新型コロナウイルスに見るヘイトスピーチ

○ヘイトスピーチとは
 法務省はヘイトスピーチを「特定の民族や国籍の人々を、合理的な理由なく、一律に排除・排斥することをあおり立てるもの」と定義しています。「合理的」というのは広辞苑に「道理や理屈にかなっているさま」とあります。ヘイトスピーチと聞けば神奈川県川崎市が全国初の罰則付き条例を施行したことは記憶に新しいのですが、今回の新型コロナウイルスでも「夜の街」、「ホストクラブ」、「接待を伴う飲食店」といった「特定の地域や職業の人々を、合理的な理由なく、一律に排除・排斥することをあおり立てるもの」になっていないでしょうか。
きれいごとではなく、その是非はともかく、正直な感情として「特定の民族や国籍の人々」に対して拒否的な感情を持っている人は少なからずいます。同じように「特定の地域や職業の人々」に対して拒否的な感情を持っている人も少なからずいます。「その感情を変えなさい」というつもりはありません。しかし、その感情を感染症対策に持ち込むと方向性を見誤るだけです。こう書くと「夜の街」、「ホストクラブ」、「接待を伴う飲食店」を営業自粛に追い込めば感染拡大は抑えられたではないかという反論が聞こえ、一見「合理的」と勘違いしている人を勢いづけることでしょう。しかし、それは人の交流が減れば感染症は減り、交流が再開すれば感染症が増えるだけという科学的事実、理屈に気づいていない人の発想でしかありません。

●気の緩みで感染拡大?
 いろんな政治家、専門家、行政担当者、マスコミがこぞって「気の緩み」といった非科学的な情報発信をしています。しかし、この発言こそが感染している人たちに対するヘイトスピーチではないでしょうか。青山学院大学の原晋監督が「政治家の皆さんは『気の緩み、気の緩み』と国民に責任を押しつけるようなところがある」と言っていますが、本当にその通りです。では、本当に気の緩みで感染する人ってどのような人かを考えてみました。
 中高生向けの講演会で最近よく話すのが、HIV/AIDSの患者さんを始めて受け入れた時のことです。患者さんから私が感染するとしたら針刺し事故以外は考えられません。全国的に、全世界的に見ればもちろんHIVに関連した針刺し事故はあります。しかし、実際に、特に初期の頃は医療関係者一人ひとりが針刺し事故を起こさないよう細心の注意を払っていたので事故はほとんど起こりませんでした。「気の緩み」が生まれるような余裕などあるはずがありません。新型コロナウイルス患者を受け入れている多くの病院でも院内感染が起こっていないのは同じように注意を払っているからです。
 こういうと「院内感染が複数の医療機関で起きている」という反論が寄せられるでしょうが、「気の緩み」なのか、「感染経路の誤解」なのかの検証が必要だと考えています。

○換気の専門家は役に立たない
 冬場に向かって換気をどうするべきかを議論するため、換気の専門家の空気調和・衛生工学会や日本建築学会の関係者の方がいろいろ発言されていますが、そもそもエアロゾル感染する新型コロナウイルス予防で「換気」という概念を取り入れること自体、感染経路や予防を理解していないと言わざるを得ません。
 エアロゾル感染よりも長時間病原体が空気中を漂っている、空気感染する結核菌対策に関わる保健医療関係者が一番気を付けているのが空気の流れです。患者さんが風下、保健医療関係者が風上に立てば患者さんが排出し空気中に浮遊している結核菌は保健医療関係者の方には流れてきません。エアロゾル感染でも同じ理屈です。その次に考えなければならないことが、空気の流れが十分確保されない場合など、患者さんが排出する菌が保健医療関係者の周囲に漂ってくる場合の予防策としてN95という高性能のマスクを正しい方法で装着することです。今回新型コロナウイルスでは、「換気」という言葉が独り歩きしているのは、感染症を理解していない人が発したメッセージだということです。空気の流れを創出した結果として、空間の空気をいかに外に排出するかを考えるべきで、換気は結果として起こることです。

●マスクではなく不織布マスクを
 「マスク」という言葉も独り歩きし、マウスシールドやフェイスシールドまでがマスクと誤解されています。マスクの材質もマスクの効果に影響するのですが、今や何かで口を覆っていれば許されると言ったとんでもないマスク大国日本になっています。先日BS-TBSの報道1930という番組が私の指摘を受けて実験をしてくれました。
 BS-TBSの報道1930ダイジェストYouTube 
 マスクの目的は感染している人の飛沫を拡散させないことですので、鼻からあごの下までを覆う不織布マスク以外は意味がないことを周知徹底する必要があります。もっとも、テレビではマウスシールドをつけて料理をしている番組もあれば、先日某県で飲んでいたら調理をする人がマスクをしていないと言ったとんでもない事実に日々直面しています。これからは「マスク」ではなく「不織布マスク」と言い続けましょう。

○直前の手洗いを
 手洗いや手指消毒も「何のため」ということが抜け落ちているようです。手洗いはあくまでも手についたウイルスがフライドポテトやタバコのフィルターに付着させた後に口の中に運ばれるのを防ぐために行う行為です。ということはこまめに洗うとか、どんなに長時間手を洗わなくても、飲食やタバコ直前に手洗い、手指消毒をすればいいのです。「いやいや、その手であちらこちらを触られたらウイルスをまき散らしているのと同じではないか」と反論を受けそうですが、そこを触った人も飲食やタバコ直前に手洗いをすれば大丈夫です。
 「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」といいますが、今撃たれている球(対策)は流れ弾となって多くの人を傷つけているだけではなく、本当に有効な対策が見えなくなっています。今一度、何ができるかを考え、できることを一つずつ積み上げたいと思います。

紳也特急 255号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『感染経路と感染行為、感染場面』~

●『高校での講演中止』
○『「感染経路」という言葉の曖昧さ』
●『「感染経路」、「感染行為」と「感染機会」、「感染場面」は似て非なるもの』
○『確率論や気の緩みの話はやめよう』
●『「エアロゾル、飛沫、唾液」による「吸入、飲食、キス感染」』
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●高校での講演中止
 北海道はいま新型コロナウイルス感染症が急増中です。そんな中、4年前から毎年、高校生を対象とした「思春期の生と性とこころ」に関する講演を依頼して下さっている苫小牧市に今年もお邪魔することが出来ました。学校側はいろんな戸惑いがある中、当初5回の講演が予定されていたうちの4回を終了した時点で「最後の学校で生徒さんに新型コロナウイルス感染が確認されたため講演会を中止することになりました」との連絡が入りました。その時間は市役所職員向けの新型コロナウイルス対策の研修会となったのですが、どことなく腑に落ちませんでした。
 感染していた生徒さんは講演を聞く予定の学年ではありませんでした。もちろん感染が広がっていることを考えれば、感染リスクがある状況を作らないようにするというのは理解できます。しかし、そもそも新型コロナウイルスの感染予防策がきちんと高校生に伝わっているとは思えませんでした。講演をした高校で気になったのが、広い、換気と空気の流れが創出された体育館で、いろんな種類のマスクをし、前後左右の距離はとらされてはいたものの、体育館の床に筆入れなどを置いている生徒さんが多くいました。
 そこで今月のテーマは「感染経路と感染行為、感染場面」としました。

感染経路と感染行為、感染場面

○「感染経路」という言葉の曖昧さ
 HIV/AIDSで当初、学校現場のみならず、多くの公的なところでHIVの感染経路は、「性行為」「血液」「母子感染」と言われていました。しかし、「性行為」はHIVに感染する行為で、「血液」はHIVの存在場所であり、「母子感染」はHIV感染が成立する人間関係です。このように「感染経路」と言いつつ、かなり曖昧な説明が当たり前のように受け止められていました。では、どのように整理すればいいかを考えた時、私は「感染経路」を「感染する行為」で整理することが適当ではないかと考え、「セックス」、「輸血」、「薬物の廻し打ち」、「刺青」と言うようになりました。
 ところが、新型コロナウイルスの感染経路を整理する中で、この原稿を書く直前までは「飛沫感染」、「エアロゾル感染」、「接触(媒介物)感染」、「唾液(キス)感染」と言っていました。よくよく考えると「飛沫」「エアロゾル」「唾液」は新型コロナウイルスが存在する場所です。「接触(媒介物)感染」は落下した飛沫やエアロゾルに触れた手等を介してウイルスがのどの粘膜に運ばれて感染するプロセスを言っています。「キス」は感染する行為です。すなわち「感染経路」という言葉の定義は必ずしも「行為」だけではなく「病原体の存在部位」といった様々な意味を持っています。

●「感染経路」、「感染行為」と「感染場面」、「感染機会」は似て非なるもの
 2020年10月23日に政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が「感染リスクが高まる『5つの場面』」として、「飲食を伴う懇親会等」、「大人数や長時間におよび飲食」、「マスクなしでの会話」、「狭い空間での共同生活」、「居場所の切り替わり」を公表し注意喚起をしました。
 「マスクなしでの会話」は本当に危ないのでしょうか。エアロゾルは換気と空気の流れを創出するしか手はありませんし、マスクをつけている方がエアロゾルの排出は増えます。飛沫は正面、2メートル以内は危険ですが、角度をつければ問題はありません。すなわち「マスクなしでの会話」は「感染場面」、「感染機会」というだけで、「エアロゾル」や「飛沫」という「ウイルスが存在する場所」としての「感染経路」への対策や、「吸入」といった「感染行為」を遮断すれば「マスクなしでの会話」であっても感染を予防することは十分可能です。

○確率論や気の緩みの話はやめよう
 「大人数や長時間におよぶ飲食」と「少人数や短時間での飲食」とどう違うのでしょうか。人数が多ければ感染している人がいる可能性が高くなるだけです。感染予防方法を知らなければ感染している人と一緒にいる時間が長くなるほど感染リスクが高くなります。「狭い空間での共同生活」も同じで、広ければウイルスに暴露される確率が減り、共同ではなく一人暮らしであれば住居内で感染している人に接するリスクがなくなるだけです。一番驚いたのが「居場所の切り替わり」で「気の緩みによる感染リスクの高まり」という指摘でした。「気の緩み」でどのようなリスクが高まるのでしょうか。「喫煙所での感染」という指摘がありますが、「喫煙所」という「感染場面」が危ないのではなく、喫煙所に入る時に素手でドア等を触り、手にウイルスを付着させたままタバコのフィルターのところを持って口に運ぶことが危険なのです。「気の緩み」と言っている人は「責任」を感染した人に押し付けてはいないでしょうか。

●「エアロゾル、飛沫、唾液」による「吸入、飲食、キス感染」
 「エアロゾル」、「飛沫」、「唾液」はウイルスが存在する場所です。それらに存在するウイルスが体内に取り込まれる行為は「吸入」、「飲食」、「キス」です。細かく言うと「目をこする」、「鼻をほじくる」と言った行為もありますが確率は低いと考えられます。「エアロゾル」も「飛沫」も最後は落下し、いろんなところに付着し、接触(媒介物)感染と言われている「飲食感染」の原因になります。このように整理すると、予防方法がすっきりします。

エアロゾルによる吸入感染を予防するには
 エアロゾルを増やさないようにマスクを外し、換気と空気の流れを創出する。

飛沫による吸入感染、飲食感染を予防するには
 飛沫は相手の顔や料理につかないよう、角度をつけて咳や会話をし、肘で咳を受け止める。
 飲食、タバコなど、口に物を入れる直前の手洗い、手指衛生を徹底する。
 自分の料理や食器は他人から遠くに置く。
 大皿料理は素早く取り分ける。
 出されたものは素早く食べる。

唾液によるキス感染
 間接キス(コップやタバコの回し飲み)もディープキスも避ける。
 パートナーとだけする。
 キスの前後に何かを飲む。

 丁寧に読んでいただいた方は「エアロゾルの落下による飲食感染」について触れていないことに気づいたと思います。これを予防することは不可能です。何故ならエアロゾルはどこに落下するかはわからないのです。でも0.5μmのエアロゾルと500μmの飛沫の体積は10億倍異なりますので、落下するエアロゾルを心配する前に、身近に落下する大きな飛沫に気を配りましょう。完璧はあり得ませんので、私はできることを一つずつ積み重ねたいと思います。

紳也特急 254号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『「伝える」から「伝わる」へ』~

●『生徒の感想』
○『「正解依存症」が阻むリスクコミュニケーション』
●『戦時中と同じ!?!』
○『できていなかったことはすぐにはできない』
●『どこから、どこへ、どうやって』
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●生徒の感想
 久しぶりに中学3年生を対象に対面の講演をさせていただきました。最前列の生徒さんは私から2メートル以上離れていたため私はマスクなし。もちろん換気と空気の流れの創出はばっちり。生徒への質問をする時はマスクをした先生が生徒にマイクを向けてくださいました。「思春期講演会」という位置づけでしたが、HIV/AIDSだけではなく、新型コロナウイルスも盛り込んだところ、生徒さんの理解も深まったと思います。

 私はこの講演をきいて、ここまで本当のことをまっすぐに言って、教えてくれる人は今まで一度もないと思いました。

 今回の講演を聞いて、感染しないために何かをがむしゃらにするのではなくて、簡単なことを丁寧にやればいいと分かった。

 コロナウイルスのこともくわしく教えてもらいました。2m以上離れていればマスクをつけなくていいこと。水筒などを床においてはいけないことです。これらの新しく知ったことをいかしていけたらいいなと思います。

 講演を聞くまで、コロナは2m離れていてもうつると思っていました。ですが、人と人が向かい合わなくて、同じ方向に向いていればうつらないことを初めて知りました。

 志村さんの話も今はメッキリされませんが、ご家族の方々はけんさんの顔を一度も見ることなく、白骨化した状態でもどってきた。しかし、飛沫さえ防げれば顔を合わせることができたらしい。それを聞いて思ったことは、無知ということは恐ろしいなと、ただただ思いました。

 今、新型コロナウイルスの感染者を差別したり、過度に遠ざけたりすることが問題になっています。その話を聞いただけでは、私もきっとそれをする側になると思います。しかし、岩室先生は、しっかりとした知識から、マスクを外して講演をしました。どの社会問題にも言えることだと思いますが、私たちは知識、経験が少なすぎるから、人をそうやって差別したり、過度に隔離してしまうのだと思います。だからこそ私は「リアル」を知ること、考えること、大人になってもたくさんの人と関わりながら、していかなければならないと思いました。

 ビックリしたのが最後の感想でした。「差別」とか、「リアル」といった言葉は使っていないのですが、何かを感じてくれたようでうれしかったです。大人たちはよく「正しい知識」と言いますが、「正しい」には、「間違っていない」や「曖昧」も含まれています。さらに「伝わる」こともあれば「伝わらない」こともあります。多くの人は「伝える」ということを簡単に、自分目線で考えていますが、相手があることですので、「伝える」だけではなく「伝わる」という意識を持ちたいものです。そこで今月のテーマはずばり、『「伝える」から「伝わる」へ』としました

「伝える」から「伝わる」へ

○「正解依存症」が阻むリスクコミュニケーション
 今回、新型コロナウイルスのことでいろんな方と話をしていると、正解依存症に陥っている方が一定数いらっしゃることに気づかされます。岩室紳也が考える正解依存症とは以下のような状態です。

 自分なりの「正解」を見つけると、その「正解」を疑うことができないだけではなく、その「正解」を他の人にも押し付ける、自分なりの「正解」以外は受け付けない、考えられない病んだ状態。

 その一方で「リスクコミュニケーションが重要」という言葉が独り歩きしています。リスクコミュニケーションをわかりやすく解説していた階層図は、下段から「情報の伝達」→「意見の交換」→「相互の理解」→「責任の共有」→「信頼の構築」の順になっています。トップが「信頼の構築」ですが、正解依存症の人にその人の正解を押し付けられてもとても「信頼の構築」はおろか、「意見の交換」さえもできません。すなわち、正解依存症の人たちはリスクコミュニケーションが成立し得ない人たちということになります。

●戦時中と同じ!?!
 戦時中のこととこのコロナ禍の時代を経験値で比べることはできません。ただ、朝の連続テレビ小説「エール」でちょうど今、第2次世界大戦の真っただ中の日本を描いていて、そこに流れる重苦しい空気はまるで今の時代と同じだと感じています。
 戦時中、国が言っていたことを盲目的に信じた正解依存症の人たちは一切聞く耳を持たず、自分たちが信じた正解を周囲に押し付けていました。「どこか変?」と思ってもとても言える雰囲気ではなかったでしょう。今回のコロナ禍でのマスクがその典型で、今朝のテレビ番組でも「感染症の専門家」が「マスクが大事」と得意気に話し、「どのような場面でマスクが大事」ということは一切話していませんでした。

○できていなかったことはすぐにはできない
 閉塞感と言えば東日本大震災後、被災地では心がつらくなる人たちが増え、こころのケアチームが数多く支援に入ってくださいました。もちろん大変ありがたかったのですが、自ら「つらい」と言える人や、周囲が変調に気づいたり、スクリーニングでこころのケアチームにつながったりする人にとって大変ありがたい存在でした。しかし、こころがつらくなっていても、自分自身のこころの状況を上手く理解も処理もできず、突発的な行動に出ないとも限りません。そのような事態も想定し、陸前高田市ではハイリスク者対策に加え、「はまってけらいん、かだってけらいん運動」を推進してきました。気仙地域の言葉で、「はまって」は「集まって」、「か?だって」は「おしゃべりをする」という意味で、カールロジャーズの「人は話すことで癒される」を地域の中で実践し続け、「自殺を予防する」のではなく「気がつけば自殺が減っている」社会づくりを目指し続けています。
 このような思いになったのは、陸前高田市では震災前からHIV/AIDSのイベントを市役所と青年会議所が続ける中で、人と人がつながることの大切さを共有できていたからでした。逆に、このような土壌がなければ、早期発見、早期対応や相談しましょうといった通り一遍の発想しか生まれませんし受け入れられません。実際、竹内結子さんが亡くなられた後のニュースを見ても「官房長官は特定の事例には言及しなかったものの、新型コロナウイルスの影響下で悩みを抱えている人もいると述べ、自殺防止のためのホットラインや相談窓口などを利用するよう呼び掛けた」と繰り返し報道されています。官房長官は素人ですので致し方ないのですが、せめて、「この閉塞感でつらくなっているこころを癒すため、最大限の感染予防策を講じながら、リアルで、対面で、人と話す機会を増やし続けたいものです」という原稿を誰かに作っていただきたかったです。でも、できていなかったことはすぐにはできないのです。

●どこから、どこへ、どうやって
 性行為で感染するHIV/AIDSを伝えようとしたとき、「性感染症」という言葉はもちろんのこと、実は「セックス」という言葉でも伝わらないということを突き付けられていました。さらに言うと「コンドーム」も丁寧に、科学的に、わかりやすく伝えなければ予防方法になるということが伝わらなかったのです。今回の新型コロナ対策として、航空会社で、さらにはスーパーで手袋をして対応している人たちは「何のための手袋?」ということを考えないで「とにかく手袋」や「言われたから手袋」になっていないでしょうか。もっとびっくりは電車の中で床に荷物を置いている人のあまりにも多いことです。で、感染症の正確な情報が伝わるにはどうすればいいかを考え、試行錯誤し続けた結果たどり着いたのが「病原体(ウイルス)は、どこから、どこへ、どうやって」でした。
 「そんなの当たり前」と思った人も多いと思いますが、そもそもセックスの際にウイルスがどこにいるかの前に、「そもそもセックスって何?」という人もいれば、「射精って何?」という人もいます。新型コロナウイルスでも、「飛沫?」、「接触感染?」と聞いて頭の中に「?」が林立している人は、「接触アプリ」と聞いて「人と触れ合うのがいけない」と勝手に思い込んでいても不思議ではありません。
 結局、伝わる話は、伝える側がちゃんと伝えたい相手と繰り返しコミュニケーションを取り、双方が納得できる伝え方にたどり着くことが求められています。でもそのような話ができる専門家はまだまだ少ないようです。この閉塞感が和らぐのにはもう少し時間がかかりそうですね。皆さん、ぼちぼちやりましょう。

紳也特急 253号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『HIVに学ぶ新型コロナ対策』~

●『テレビに出て思ったこと』
○『性はまだまだタブーの日本』
●『5つのエチケット』
○『感染経路がつながっている人たちの間で流行』
●『スウェーデンに学ぶ』
○『日本の対策も選択肢の一つ』
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●テレビに出て思ったこと
8月13日に65歳になりました。1981年、HIVが発見された年に医者になり、既に40年目に突入しています。それなりにいろんなことに関わって来たので、そろそろ後進に道を譲り・・・・・と思っていたところ、新型コロナウイルスが台頭。ま、いろんな人が関わってくれているからそれなりにまともな方向に向かうと思いきやとんでもありませんでした。
いろんなお店がつぶれ、多くの人が苦しい思いをしているのに相変わらずマスコミから流れてくる情報は「???」が付くものばかり。本当に一人ひとりに必要な情報を誰が流してくれるのかと思っていたところにテレビ出演の依頼が舞い込んできました。公衆衛生医として、日本だけではなく世界を含めた新型コロナウイルスの動向を注視してきた立場で外国の先進事例に学ぶ立場でコメントをと声をかけられたので、誕生日だったのですが、出かける予定もなかったため出演させていただきました。
新型コロナウイルスについては曖昧な情報と不安ばかりが広がり、海外の先進地や先進的な取り組みについても、正確に理解されていないという思いから、いま、大事な情報は何かを盛り込みながらの解説を試みました。その中で印象的だったのが「キスでうつる」という発言にスタジオがざわめいたことでした。HIVの感染予防の話をする際に「セックス」や「コンドーム」といった「過激」な言葉を言わないと正確な情報が伝わらないためいろんな苦労をしたのですが、「キス」という言葉も言えないということにびっくりでした。
ということで今月のテーマを「HIVに学ぶ新型コロナ対策」としました。

HIVに学ぶ新型コロナ対策

〇性はまだまだタブーの日本
新型コロナウイルスが咳などに含まれる飛沫で感染することや、唾液をつかったPCR検査、抗原検査が行われていることからもわかるように、新型コロナウイルスが唾液の交換が起こるキスで感染します。というか、キスで交換する唾液の量は飛沫と比べれば膨大な量なので感染リスクは非常に高いです。しかし、このことが日本人の常識にならないのは何故でしょうか。
・誰もはっきりと「キス感染」と言わないから。
・想像力がないから。
・性にまつわることは考えないようにしているから
HIVの感染経路の普及啓発で苦労をしたのは、そもそも「セックス」や「コンドーム」といった言葉を使うことがご法度だったことです。しかし、「キスではうつりません」というのは言ってもOKでした。すなわち、真実がより過激な言葉にある時は、その手前の言葉は使ってもOKですが、新型コロナウイルスでは「キス」が一番過激な性にまつわる言葉になるので、それを言うことがはばかられるのでしょう。日本では性に関する話題はまだまだタブーなようです。

●5つのエチケット
とは言え、「キス」を避けて通ることができないのでどうすればいいか。HIVの時は「コンドームの達人」という言い方で「コンドーム」の市民権の確立に一役買ったつもりですが、今回は「キス」を入れるため、シンプルに、やんわりと「5つのエチケット」として紹介しています。

・咳・会話エチケット
人に、料理に飛沫をかけない(意外な落とし穴が大皿料理です。大皿で出てきたらすぐ取り分けることが大事)
マスク(必須ではありません)
肘で咳を受ける(手で受けると、手についた大量の飛沫をあちこちに付着させることになります)
横を向いて咳や会話をする(飛沫はまっすぐしか飛ばない)
・換気エチケット
可能な範囲での換気の励行(エアロゾル対策はこれしかない)
空気の流れの創出(換気が十分でなくても、空気の流れでエアロゾルは拡散される)
・手洗いエチケット
飲食直前の手洗いの徹底(よく「こまめに」と言いますが、素手で食器や料理を触る直前にきちんと洗わないと意味はありません)
・会食・サービス・接待エチケット
料理・食器に飛沫をかけない(調理する人がマスクをするのはこのため)
食器・手指衛生の徹底(自動水栓がベスト)
・キスエチケット
ディープは避ける(軽い「(*´ε`*)」であればうつらない)
パートナーとだけ(笑)
キスの前後に何かを飲む(ウイルス量低減効果を期待)
覚悟のキス

このように「できること」を常に確認することが大事ではないでしょうか。

〇感染経路がつながっている人たちの間で流行
新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから半年以上が経過しました。その間、世界中で様々な取り組みが行われてきましたが、どれが正解で、どれが間違いとは言えません。いかんせん相手はウイルスですので。大事なことは「感染経路」を共有していない人ではうつらないということです。HIVはセックスでうつりますが、セックスをしない人、コンドームを最初から最後までする人はうつりません。すなわち、感染経路がつながらなければ感染しないのです。
Johns Hopkins University (JHU)のCOVID-19の国別統計サイトは今見ると非常に勉強になります。このウイルスは完全には消えないものの、収束をする場合は感染拡大が起こったスピードよりややゆっくりですが、同じような曲線で収束する傾向があります。このことからウイルスが入り込んだ集団、すなわち感染経路がつながっている人たちのグループに一気に広がると、収束もスピーディーです。収束しない国や地域は感染経路が次から次へといろんな人とつながり続けているということになります。アメリカは現在のところ2峰性になっていますが、これはニューヨーク州を中心とした北東部は収束に向かっているのに、流行が他の地域に広がった証と考えられます。

●スウェーデンに学ぶ
スウェーデンは流行の初期からロックダウンを含めた人と人の交流を遮断することを行わなかったため、いろんな批判がありました。しかし、現状を見ると、人口1,000万人の国で感染者数は87,000人、死者5,800人です。注目すべきは感染者数が緩やかに増え、緩やかに収束に向かいつつあるのに対して、死者はかなり前から急速に減少し、最近は一桁台になっています。新型コロナウイルスは高齢者で合併症がある方が重症化したり、亡くなったりしているといっても、「高齢」「合併症あり」の人が全員亡くなっているわけではありません。おそらく「高齢」「合併症あり」の人たちの中でよりハイリスクな人たちが亡くなっているのではないでしょうか。もしかしたら新型コロナウイルスが流行しなかったとしたら、年間3,000人が亡くなるインフルエンザの流行で命を落とされていた可能性も否定できません。実はスペインやイタリアと言った感染爆発が起こったところでも、その後再流行があっても死者はそれほど増えていないことともつながります。

〇日本の対策も選択肢の一つ
日本とオーストラリアを比べると興味深いことがわかります。オーストラリアは行政府主導で、日本は行政の声かけに住民しっかり反応してほぼロックダウンのような状況を作りました。その結果、第1波と言われた状況も、感染者数も死者数もいったんは収束しましたが、自粛をもう一段緩めたらそれまで感染経路がつながっていなかった人たちがつながり、感染者数も死者数も増え、第2波を形成しました。人と人の交流の遮断は医療崩壊の予防という点では意味がありますが、感染の収束にはならない、その場しのぎの対処法だということが明らかになっています。
もちろんず~~~っとロックダウンを続ければ感染経路がつながっていない人たちは新型コロナウイルスには感染しませんので、自分のことだけを考えれば選択肢の一つです。これまでロックダウンに近い自粛を求めてきた政治家、専門家の方々は今後難しい選択を迫られていることになります。なぜなら、自粛を緩めればそれまで感染経路がつながっていなかった人たちがつながり、感染者も死者も増え、第3波になることは必至です。
もしかしたら世界の多くの国は意外とこのまま収束の方向に行くのに、日本だけがロックダウンを繰り返して、この後だらだらと何波も来るようだと、世界各国はオリンピックに行けるのに主催国が受け入れられないと言ったことにならないのでしょうか。ふとそのようなことが気になりました。
だからこそ、「5つのエチケット」が大事です!

紳也特急 252号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『新型コロナウイルスとの共生はおかしい』~
●『2020 AIDS文化フォーラム in 横浜』
○『「共生(ウィズ・コロナ)」は意味のないスローガン』
●『共生のための条件』
○『共生しているのは「誤解」や「差別」と』
●『差別を経験していないから差別をする』
○『できることを積み重ねるだけ』
…………………………………………………………………………………………

●文化フォーラム in 横浜
 2020年8月7日(金)~9日(日)、オンラインではありますが、予定通りの日程で第27回AIDS文化フォーラム in 横浜を開催します。
 https://abf-yokohama.org/
 全体のテーマは「リアルにふれる ~一人ひとり大切なことを探してみよう!~」です。このコロナの時代に一人ひとりにとって何が大切なのでしょうか。ぜひオンラインプログラムにご参加いただき、思いを伝えていただければ幸いです。
 オープニングは「相変わらず感染症に振り回される日本 ~「いいエイズ、悪いエイズ」に学べず「いいコロナ、悪いコロナ」に!?!~」と題してトークを展開します。結局、そうなってしまうのは、HIV/AIDSの歴史だけではなく、多くの人は過去の人たちの経験に学ぶことなく、いま、自分が感じているがままに生きているからではないでしょうか。
 2016年のAIDS文化フォーラム in 横浜のオープニングでも取り上げた津久井やまゆり園事件も、4年が経った今、犯人の植松聖の死刑が確定しましたが、世の中では「障がい者との共生」というスローガンを掲げ続けるだけです。
 そこで今月のテーマを「新型コロナウイルスとの共生はおかしい」としました。

新型コロナウイルスとの共生はおかしい

○「共生(ウィズ・コロナ)」は意味のないスローガン
 津久井やまゆり園の事件のその後を見ても、「共生」という言葉はスローガン、絵空事、他人ごとだということが明らかです。「共生」という言葉を使うことなく、当たり前のように共生している人たちは大勢います。一方で、多くの人が「共生」という言葉を使う背景には、現実には「共生」どころか差別や偏見が暴走し、結果として津久井やまゆり園のような事件を起こしてしまうからです。
 
 人は経験に学び、経験していないことは他人ごと。
 
 この言葉を繰り返し使っていますが、人は自分自身が経験するまでは他人ごとです。新型コロナウイルスも報道で何人が感染した、何人が亡くなられたと聞いても、ほとんどの人にとってやはり他人ごとではないでしょうか。そのような状況の中で「共生(ウィズ・コロナ)」というスローガンを声高に話している人たちを見聞きすると、その人たちこそ新型コロナウイルスを他人ごとと考え、事の本質を深掘りしていないのではと思ってしまいます。

●共生のための条件
 「いやいや、毎日自粛しているし、ソーシャルディスタンスには気を付け、3密を避けるようにしているから決して他人ごとではない」と反論する人もいるでしょう。しかし、そのように行動している人は新型コロナウイルスを正しく理解しているかと言えばそうではなく、ただただ自分が感染しないように、自分なりの理解のもとで対策をしているだけではないでしょうか。
 何を隠そう、私自身、今や自分自身の専門と言ってもいいHIV/AIDSについて「共生」という視点に立てるようになったのはここ10年ぐらいです。本当の「共生」とは、例えばHIVを持っている人が目の前に現れたら、その人も、私自身もHIVを持っていることを特別意識することなくお互いが関われることだと思います。もちろん医者ですのでHIVに関連した医療行為を求められたらそれを当たり前のように提供すればいいだけです。
 新型コロナウイルスだからと言ってこれまでと異なる対応を取るのではなく、不足している知識や情報を整理し、感染する人が周囲にいたら「ついうっかりもあるよね」とか、「そもそも3密やソーシャルディスタンスは感染している人のウイルスがどうやって感染していない人にうつるかをぼかして理解されているのでこの状況では感染する人は減らないよね」といった冷静な対応ができることこそが本当の「共生」ではないでしょうか。

○共生しているのは「誤解」や「差別」と
 科学的な情報が共有されないばかりか、誤解、誤った情報が独り歩きしています。「夜の街」といった差別が当たり前のように受け入れられています。なぜ感染症の分野で誤解や差別、偏見が繰り返されるのでしょうか。
 HIV/AIDSの場合は、実際に感染拡大が起こったのが男性同性間の性的接触だったので、私を筆頭に、ゲイ、男性同性愛に慣れていなかった人たちの間で誤解や差別、偏見が広まりました。しかし、新型コロナウイルスは誰でも感染するので誤解や差別はもっと少ないのかと思いきやそうではありませんでした。考えてみれば誤解や差別、偏見というのはすべて他人ごと意識の人たちがまき散らすことです。世の中の大半が「新型コロナウイルスに感染するかもしれない」という恐怖を感じているという意味では一見自分ごとですが、「感染した自分」はやはり他人ごとなのです。「感染したら周囲の人に言えますか?」と聞けば多くの人は「言えない」と回答するのではないでしょうか。すなわち、誤解や差別は歴然とこの世の中に存在し、われわれは誤解や差別を受容し、誤解や差別と共生しているのです。

●差別を経験していないから差別をする
 ご自身が差別される経験をしたことはありますか。「差別」された経験がないと「差別」がどのようなものかわからないのではないでしょうか。私は小学生の時にアフリカのケニアで「yellow」と言われたりしてきた経験から、欧米の人たちから差別的な目で見られているという経験を繰り返ししてきました。当時は「差別」や「discrimination」という言葉も知りませんでしたが「嫌な気持ち」だけは覚えていました。今思うと、このような経験をしていたからこそ、日本に帰ってから部落問題や父が結核だったことに対する根深い差別に気づかされた時に「何で差別をするんだろう」と思っていました。裏を返せば、差別を経験していないから差別ということをしてしまうのが人間なのかもしれません。

○できることを積み重ねるだけ
 「共生」や「差別の解消」を訴え続ける限り、結局はスローガンを言っている人の自己満足で終わります。新型コロナウイルスは実は共生の相手ではなく、そこにいるだけの存在です。そのことをただただ認識し、できる予防を心掛け、感染したらできることをすればいいだけです。私は新型コロナウイルス関連の事実をただ淡々と伝えることで、聞き手もウイルスを過剰に意識しなくなる雰囲気を作れたらと考えています。
 なぜ手洗いをするのか?それは新型コロナウイルスがいるからだけではなく、いろんな病原体がいる地球の中で自分を守る術だからです。それだけのことですよね。

紳也特急 251号

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~今月のテーマ『新型コロナは性感染症』~
●『夜の街』
○『性を語れない日本』
●『キスでうつる新型コロナ』
○『夫婦間感染は仲がいい証拠』
●『正確に伝える意味』
○『キスをしてもうつらないために』
…………………………………………………………………………………………
●夜の街
 街の灯りがとてもきれいねヨコハマ、ブルーライト・ヨコハマ。
 東京で一つ、銀座で一つ、若い二人がはじめて逢った、ほんとの恋の物語。

 ちょっと古いですが、夜の街はこれらの歌を生んだ日本の財産ではないでしょうか。
 ところが都知事だけではなく、マスコミも新型コロナウイルス感染で「夜の街」、「接待を伴う飲食」、「ホストクラブ」、「キャバクラ」といったことを盛んに叩いています。まるでそれらがなければ日本から新型コロナウイルスを除去することができるかのような勢いです。その一方で、なぜそれらの環境の中で新型コロナウイルスが広がっているのかについての詳細なコメントや情報提供が行われていません。では一番の感染経路は何でしょうか。

 3密(密閉空間で換気が悪い、近距離での会話や発声、手の届く距離に多くの人がいる)→No
 飛沫感染→No
 エアロゾル感染→No
 接触(媒介物)感染→No
 何を隠そう、「キス」だったのです!!!!!!

 そこで今月のテーマを、「新型コロナは性感染症」としました。もっとも、正確に言うと新型コロナウイルスは性感染もするウイルス、ということですが。

新型コロナは性感染症

○性を語れない日本
 「夜の街」、「接待を伴う飲食」、「ホストクラブ」、「キャバクラ」といった抽象的な表現ではなく、はっきりと「新型コロナウイルスはキスでうつるのです」と言えばいいのですが、それが言えないのが日本人、日本のマスコミのようです。まるで、エイズパニックの頃のように、いや今でもそうかもしれませんが、性に絡んだ話をするのが本当に苦手です。HIV/AIDSで世間がパニックだったころ、岩室はシンプルに「HIVに感染するのはセックス。だから感染を予防するにはノーセックスかコンドーム。このシンプルなメッセージでいいんです」と訴えていたら、ひどいバッシングに遭いました。「思いやりが大事」、「セックスを奨励しているのか」、「コンドームを使えば誰とでもセックスをしていいのか」とわけがわからない反論ばかりでした。でも、今回の新型コロナでも同じようなことが起きています。日本人はやはり性に関わる言葉を口にできない国民なのでしょう。

●キスでうつる新型コロナ
 ホストクラブでの感染拡大を機に「エレチュー」という言葉が一般の人に知れ渡りました。エレベーターの中でチュー(キス)をすることですが、大事なことは何故キスで新型コロナウイルスが感染するかということです。流行の初期の頃から、新型コロナウイルスはのどや鼻にいて、咳や大声で飛び出した飛沫やエアロゾルに含まれたウイルスが直接感染していない人の鼻やのどに入ったり、落下したウイルスが食べ物などを媒介としたりして、のどの奥に持ち込まれて感染が成立すると言われていました。一方で「唾液でPCR検査」というのを聞いたことがあると思いますが、唾液中にも多くの新型コロナウイルスが存在します。キスをするとお互いの唾液の交換が行われるので、感染している人の唾液の中のウイルスが感染源になるのです。

〇夫婦間感染は仲がいい証拠
 これまでも、都内在住者から帰省先の「友人」、「知人」が感染したということは繰り返し報道されていましたが、その際にキスでうつった可能性に関する報道はありませんでした。正直、私も新型コロナウイルスが広がり始めた当初からキス、唾液で感染するということをほとんど意識することも、発信することもありませんでした。しかし、発信しなければと思っていた矢先に「夜の街」報道が始まりました。
 「夜の街」の前に考えなければならないことは、夫婦や恋人のどちらかが新型コロナウイルスに感染してしまった場合、相手にうつしてしまう可能性が高いことです。皆さんは自分の大事なパートナーに感染させたいですか。冗談じゃないですよね。でも、「新型コロナウイルスはキスでうつる」ということを知らないと感染させてしまう可能性があります。もちろん知らない内に感染していて、無症状のため、自分自身の感染に気付くこともなくパートナーに感染させてしまうということは十分考えられます。でもパートナーがウイルスをもらってしまうというのは仲がいい証拠とも言えます。

●正確に伝える意味
 「新型コロナウイルスはキスでうつる」と知った人はどのような行動をとるでしょうか。

 キスをしない
 パートナー以外とキスをしない
 お客さんとキスをしない
 ホスト、ホステスとキスをしない
 キスをした後、2週間は他の人とキスはしない

 いろんなことを考えると思います。しかし、知らないと、ついパートナー以外の人とキスをしたり、「ま、いいか」と「夜の街」で遊んだり、罪滅ぼしとか言っていつもはしないチューをしたり、と感染拡大につながります。だからこそ、事実を、科学的に、正確に伝えることが必要です。

〇キスをしてもうつらないために
 では、どうしてもキスをしなければならない時に、でも感染予防はしたいと思った時にできることはないのでしょうか。キスでの感染を100%予防するにはキスをしないしかありません。でも、キスで感染するリスクを少しでも減らすためにできることはあります。考え方は至ってシンプルです。自分が感染していない場合で列挙しますが、逆は自分が感染している可能性がある時にできることになります。

1.口の中に入るウイルス量を減らす
   ディープキスを避ける
   キスの前に相手に水分を飲み込んでもらい、口の中のウイルス量を減らす
2.口の中に入ったウイルスを早く出す
   キスの後にうがいをする
3.口の中に入ったウイルスを早く胃の中に流し込む
   キスの後に水分を飲み込む

 どれも確実ではないですが、しない場合よりは感染するリスクを減らせるのではないでしょうか。さらに言うと、このような情報を伝えることで新型コロナウイルスが実は身近な問題なんだと感じてもらうことが重要だと思っています。皆様も気をつけましょう。
 

紳也特急 250号

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~今月のテーマ『エビデンスという幻想』~
●『今こそ緊急事態?』
○『なぜ「エビデンス」を求めてしまうのか』
●『「3密」にエビデンスはない』
○『「エビデンス」ではなく「ファクト」へ』
●『感染経路をめぐるファクト』
○『マスクのファクト』
…………………………………………………………………………………………

●今こそ緊急事態?
 なんと今号で250号です。よく書くことがあるなと思いますが、今月も新型コロナウイルスについて書いていました。もともとHIV/AIDSに取り組む中で、感染症対策についてはそれなりに考え続けてきたつもりなので、昨今の新型コロナウイルス狂騒曲は正直「またか」と同時に、「だよね」という印象です。
 緊急事態宣言が解除された今、皆さんはどのような思いでしょうか。私は3月1日から週1回の外来診療以外のほぼすべての仕事がストップし、持続化給付金を申請し早速受け取りました。いずれ振り込まれるであろう特別定額給付金と合わせて、お陰様でとりあえず食べることには不自由はしませんが、ストレスが溜まる毎日であることは間違いありません。何がストレスかというと、今行われている新型コロナウイルス対策があまりにも非論理的だということです。なぜそうなるのかを考えていた時に、私の発言に対して「エビデンスは?」と投げかけられました。
 エビデンスを広辞苑で調べると「証拠。特に、治療法の効果などについての根拠。」とありました。新型コロナウイルスをきっかけに取りざたされているエアロゾル感染がどれだけ新型コロナウイルスの感染拡大に寄与しているかのエビデンスはありません。そもそも飛沫、エアロゾル、接触(媒介物)感染が、何:何:何の割合というエビデンスはありません。なのにマスク、マスク、マスク狂騒曲になり、今の流行りはフェイスシールドです。今こそ緊急事態ではないでしょうか。そこで、今月のテーマを「エビデンスという幻想」としました。

エビデンスという幻想

〇なぜ「エビデンス」を求めてしまうのか
 日本人は小学校からテストを受け続けてきました。テストでいい点数を取るには先生が意図した答えを、正解を書かなければなりません。その繰り返しの結果、世の中には「正解」が存在すると信じ込ませられてはいないでしょうか。
 学校の試験で忘れられない出来事があります。6年間住んでいたケニアから日本に帰って来た直後に受けた小学校6年生の社会のテストでした。答えが西アジアの国の「Turkey」だと分かったので、回答欄に「ターキー」と書いたら「×」でした。先生に「どうして?」と聞くと、正解は「トルコ」だ教えられました。
 ケニアの小学校では教師に「君はどう思う?」と言ったことを問われ続けてきたので、一刀両断の日本の学校にびっくりでした。今だったら「Wikipediaにこう書かれています。トルコ語による正式国名は、Türkiye Cumhuriyeti(テュルキイェ・ジュムフリイェティ)、通称 Türkiye(テュルキイェ)である。公式の英語表記は、Republic of Turkey。通称 Turkey(ターキー)。日本語名のトルコは、ポルトガル語で「トルコ人(男性単数)」もしくは「トルコの(形容詞)」を意味するturcoに由来する」と反論するところですが、当時はただただビックリでした。

●「3密」にエビデンスはない
 新しい生活様式が押し付けられていますが、びっくりしたのが5月28日のNHKニュースでした。視聴者からの質問として紹介されていたのが「緊急事態宣言解除後も手洗い必要?」でした。もちろん知識がない人もいるでしょうが、かのNHKが取り上げたのがブラックジョークでないとすれば事態は深刻です。
 流行語大賞を取りそうな勢いの「3密」ですが、どこにも3密で感染が広がるというエビデンスがないことをお気づきでしょうか。確かにクラスターが発生したところでは、「密閉空間」「密接した近距離での会話」「人の密集」はありますが、それがクラスターの発生につながったのは単なる結果、ファクトです。どの感染経路がこの3密で感染拡大につながったかというエビデンスはありません。見方を変えれば「手洗いがこまめにできない狭い空間」、「密集のため同じ環境を触ってしまう」「人気スポットなので多くの人が繰り返し利用するため、過去の利用者のウイルスが残っている」と言ったことも考えられます。すなわち感染を証明する「エビデンス」はないのですが、感染が広がったという「ファクト」があるだけです。

〇「エビデンス」ではなく「ファクト」へ
 ファクト【fact】は広辞苑で「事実。証拠。実説」とあります。感染経路にしても、飛沫、接触の二つの感染経路と思われていたのにエアロゾルが入ってきました。ただ、エアロゾルがどの程度感染拡大に寄与するかはわかっていませんし、そもそも飛沫と接触の二つの感染経路でもどちらが優位かというエビデンスはありません。
 で、何が起こったかというと「専門家会議」に対する妄信でした。まるで小学生が、先生の答えをただただ信じ、それに従い、それを自分から発せられるように勉強したのと同じです。いま、学校が始まり、分散登校、生徒間の教室での距離を取るようにしていますが、そうすることでどの感染経路の予防につながるのかの検討が一切ありません。
 そもそもソーシャルディスタンシングという考え方が出てきた背景に着目する必要があります。日本のようにほぼすべての国民が教育を受け、手洗いといった予防手段が入手できる国と、先進国であっても移民や貧困層の問題を抱え、教育も難しく、基本的な予防策が徹底できない国では自ずと対処方法が変わってきます。「話せば(感染予防方法が)解る」と、「離せば(感染が減るのが)判る」の違いです。

●感染経路をめぐるファクト
 フィリピンパブではアルコールによる手指消毒の結果、手を握り、隣でカラオケをしても飛沫、エアロゾル、接触のどの感染も起こらなかった一方で、アルコール消毒の前の時間差で同じ環境にいたというだけで接触感染がおこったというファクトがあります。屋形船もライブハウスでの感染も、接触感染で説明がつきます。接待を伴う飲食で広がった理由も接触感染で説明できます。しかし、そのファクトを汲んでいない専門家会議の判断について妄信しているのが今の世の中です。
 「正解」を研究社新和英大辞典で調べると次のように訳されています。

 〔正しい解釈〕 a correct interpretation
 〔正しい答え〕 a right answer; a correct response
 〔正しい解き方〕 a correct solution
 〔正しい判断〕 an appropriate judgement.

 「正解」を広辞苑で調べると次のように書かれています。
 ①正しい解釈。正しい解答。
 ②結果として、よい選択であること。

 どちらも、「答え」以外に「解釈」、「解き方」、「判断」、「選択」というのが含まれていますが、一般的な感覚として「正解」には個人の解釈、解き方、判断、選択と言った要素が含まれていないように思います。

〇マスクのファクト
 新型コロナウイルスのことを考え続けた結果、個人的にはマスクに対する自分自身の考え方が深まりました。これまでエアロゾル感染は念頭になかったので正直なところ最初は戸惑いました。しかし、エアロゾル感染を理解することでさらにマスク不要論の後押しになりました。
 マスクをすると息苦しさが増し、深呼吸になり、より多くのエアロゾルを周囲に流出させ、他の人のエアロゾル感染のリスクを増やす可能性が高まります。不織布のマスクは繊維の静電気で粒子を補足するので、呼気で繊維に水分が多く付着してしまうのとその効果が弱まります。布マスクやポリウレタンマスクはそもそも粒子を補足しづらいにもかかわらず、マスク装着で呼吸が深くなり、非装着時よりエアロゾルをより多く出してしまいます。
 結局、「マスクは他の人にうつさないため」といいつつ、マスクをすることでエアロゾル感染のリスクを高めているのです。咳やくしゃみをしそうな時、ひっかけられないよう、ひっかけないようにすればそれでいいと思いませんか。でも・・・・・・・・・・ですよね。難しいです。

紳也特急 249号

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~今月のテーマ『ロックダウンではない「外出自粛」の意味と今後』~

●『外出自粛要請の意味と副作用』
○『日本人はちゃんと衛生的な行動をしている』
●『「HIV感染予防に割礼」という欧米流公衆衛生』
○『日本人に合った対策を』
●『先生はマスクをしないのですか』
○『優先順位』
…………………………………………………………………………………………

●外出自粛要請の意味と副作用
 人と人の接触を80%減らせば終息へ。
 何も対策を講じなければ死者40万人。
 いろんなことが発信されていますが、皆さんはこれらの情報をどの程度信じていますか。仕事もなくなり、発表されるデータ、発信されるインターネットやSNS等の情報を拝見しながら、少し引いた立場で、客観的に今の状況をどう考えるべきなのか、日本はどこに行くのだろうかを考え続けています。その中で一番気になるのが外出規制、ステイホーム週間といった人と人の交流を遮断する対策の意味と副作用です。確かに人と人が接触しなければ、人が媒介物(fomites)となって広がる感染経路は断てます。しかし、人と人が接しないことで経済の疲弊どころか崩壊、DVや虐待の増加、教育の遅れ、等が現実の問題になってきています。
 元々中国で始まったロックダウンを欧米諸国が取り入れていく中で、日本も右に倣えをしたようにも見えますが、それほど厳しいものではなく、「外出自粛」にとどまっています。感染拡大がある程度コントロールされつつある今こそ「外出自粛」の意味、意義、成果と今後について考えるべきです。そこで今月のテーマを「ロックダウンではない「外出自粛」の意味と今後」としました。

ロックダウンではない「外出自粛」の意味と今後
 
○日本人はちゃんと衛生的な行動をしている
 先の専門家委員会の先生の「何も対策を講じなければ死者40万人」と言う発想は日本人を、日本の公衆衛生(ここでいう公衆衛生は専門家主導のではなく、日本人一人ひとりの衛生概念、衛生行動という意味です)を理解されていないから仕方がないと思います。おそらく海外で作られた、それこそ「衛生」という概念がない地域で作られたモデルで推計をされたのでしょう。それとも「日本人は脅さないとダメ」と敢えて40万人という数字を出されたのでしょうか。
 日本人は家に入る時は靴を脱ぎ、飲食店だけではなく、夜の繁華街でこそお手拭き、おしぼりが当たり前、手洗いの時に蛇口の栓をひねらないように多額のお金を払って自動水栓を広めるだけではなく、トイレの扉も自動。他人に感染させないため自らの感染リスクを無視してマスクをつけている日本人に対して本当に失礼です(笑)。今回、政府がロックダウンではなく外出自粛にとどめたのも、一応国民の衛生行動を理解しているからだと考えています。

●「HIV感染予防に割礼」という欧米流公衆衛生
 では、海外での公衆衛生の視点はどのようになっているのでしょうか。私自身、1994年に横浜で開催された第10回国際エイズ会議での議論が忘れられません。オーストラリアの医者が「アフリカでのHIV感染拡大を防ぐために割礼、包茎の手術が有用である」という発表をしました。確かに統計学的には有用だと証明されているのですが、私は「ほかに手段があるだろう」という思いでした。何より「コンドームが普及すればいい」と思っていましたが、「そんなコンドームを誰が提供し、誰が使い方を教えるのか」と言われてしまうと「ごめんなさい」となってしまいました。「割礼をしなくても剥いて洗っていれば包皮内の炎症は予防でき、感染リスクも下げられます」と話をしたら、やはり「それを、誰が、どう伝えるのか。風呂もないぞ」と反論されました。すなわち、「理屈や理想より現実を」ということでした。それが移民を含め多くの貧困層、教育が浸透していない国民を抱えている、あるいはそのような地域を支えている欧米の公衆衛生関係者の立ち位置です。だから欧米の多くの地域ではロックダウンという選択肢になったと考えています。
 もう一つは欧米人が変えたくない「文化」が背景にあるように思います。欧米の公衆衛生関係者も家の中に土足で入ることのリスクは承知しています。しかし、そこに踏み込むと、それこそ「文化」を相手に喧嘩を売っているようなものなのでそれは避けるでしょう。さらに欧米人は大好きなハンバーガー、フライドポテト、ビザ、サンドイッチ、タコス、ベーグルを素手で食べます。ハンバーガーショップでお手拭きが付くのは日本発のお店です。このように「文化」の差が「公衆衛生」の差になっています。

○日本人に合った対策を
 今回、初期の流行を抑え、医療崩壊を回避するために「人と人の接触を80%減らそう」という呼びかけは理解できます。しかし、流行がある程度抑制されたら「手洗い」や「咳エチケット」といった基本的な情報提供を徹底する必要があるのではないでしょうか。いま一番危惧をしているのが3密という正解が浸透してしまった国民感情です。日本人は真面目なので、自粛解除になっても、「新型コロナウィルスが消えたわけではないので、3密を避け、永遠にテレワーク、宴会禁止、学校閉鎖、ソーシャルディスタンスが重要」と主張し続ける方が出てくるのではないでしょうか。
 スウェーデンが集団免疫を獲得する方向で、国民一人ひとりに考え、できることを実践してもらうようにしていることは大いに参考になります。完璧な終息は当分先の話になりますので、段階的な自粛解除後は前号で述べたように、大きな流行を起こさずに集団免疫を獲得することを目指すしかありません。一人ひとりができることは、結局のところ手洗いと咳エチケット、マスクです。
 
●先生はマスクをしないのですか
 マスクをしないで街中に出ると白い目で見られます。「無症状の人でも感染している可能性があるし、その人と話すだけでエアロゾル感染が、その人が咳をすれば飛沫感染がおこるので、他人に感染させないためにもマスクは当たり前」とされています。
 3週間ほど前、外来診察中にHIVに感染している患者さんが「岩室先生はマスクをしなくても大丈夫なのでしょうか」と真面目に心配してくれました。何を隠そう、この原稿を発信する2週間前から診療をする時にマスクをするようにしています。それまではしていませんでした。理由は簡単です。私がマスクをすることで、私が感染するリスクが高くなるからです。
 いま、医療機関で、それも感染症の指定医療機関で医者や看護師が感染しているのは何故だと思いますか。防御資材の使いまわしもあるでしょうし、現場での緊張感のあまり、マスクの表面をつい触ってしまったり、休憩時間や日常生活でつい油断してしまうからで、本当に気の毒だと思います。この状況こそ医療崩壊と言ってもいいと思います。

○優先順位
 私が感染していて、患者さんに感染させてしまうリスクはゼロとは言えません。ただ、飛沫を直接かけないように診察中は咳をしない。エアロゾル感染と言ったことも言われているので大きな声でしゃべらない。当然のことながら向き合って近距離で話さない。こういうことには気をつけています。
 一方で私が診療の場面で感染するとしたら、病院内に広がっている可能性があるウィルスを私が接触感染、媒介物感染(fomites infection)で取り入れることです。もちろん食事の前の手洗い等々は注意していますが、一番危ないと考えているのが付けなれないマスクの表面を素手で触ることとマスクの使いまわしです。厚木市立病院では職員に配給されるマスクは週1枚で医療崩壊状態です。私が感染したら私が診療しているHIV/AIDSの患者さんを診てくれる医者はいません。そのため、すごくわがままに聞こえるかもしれませんが、「私が感染しないためにマスクをしない」という選択をしていました。
 ただ、今の時代、それこそ外来患者さんが感染し、濃厚接触者として岩室の検査が行われ、実は岩室も感染していたとならないとも限りません。その時は病院の医者ですのでマスコミに公表されることとなります。「前述のような注意をしていました」と言っても通用しないと考え、「外来患者の診察時にはマスクを着用していました」というコメントが出せるよう、アリバイづくりのために、自分自身の感染リスクの優先順位を下げることにしました。
 さていつになったら終息するのでしょうか。皆様もお大事に。

紳也特急 248号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『新型コロナウィルスはどう終息するか』~

●『感染症と付き合ってきたからこそ』
○『感染経路の思い込みのリセットを』
●『「環境の中の総ウィルス量」という考え方』
○『感染した人が出すウィルス量』
●『集団免疫とは』
○『隔離政策の意味と弊害』
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●感染症と付き合ってきたからこそ
 新型コロナウィルスのおかげで、日本には本当に多くの「感染症の専門家」がいたのだと知りました(笑)。と同時に、そんなに感染症に詳しいのなら、どうしてこの人たちはHIV/AIDSが広がった時に診療に当たってくれなかったのか、今でも診療拒否をしているのだろうかと思いました。先日お会いした開業医の方も新型コロナウィルスについて熱く語っておられましたが、HIV/AIDSの話になると「あれは大変な病気ですよね」と、完全に逃げ腰でした。
 AIDS文化フォーラム in 横浜が始まった27年前、感染症の専門家でもない、一泌尿器科医の私がHIV/AIDSを診ざるを得ない状況でした。正直なところ、治療薬もない、接しているだけで感染するかもしれない、と考えながらも、「医師免許」をいただいている限り診療するのは当たり前という立場で、でも自分自身が感染しないために何ができるかを考え続けていました。だからこそ「感染症」ということをいろんな角度から考え続けることができました。
 いまの世の中はまるで30年近く前のエイズパニックのような状況です。ただ、当時と違うことは、志村けんさんが亡くなられたように、新型コロナウィルスを身近な問題と受け止めてくれている人が多いことです。新型コロナウィルスはいずれ終息します。なぜかと言うと、今感染されている方の多くは治癒されているからです。
 そこで今月のテーマを「新型コロナウィルスはどう終息するか」とし、終息に向かうということはどういうことか、そのためには何が必要か、一人ひとりができることは何かを考えてみました。

新型コロナウィルスはどう終息するか

○感染経路の思い込みのリセットを
 様々な報道が誤解を生み、空気中に浮遊しているウィルスで感染すると思っている人が大勢います。しかし、満員電車での通勤を余儀なくされている首都圏のサラリーマンの中で感染爆発は起きていません。この事実こそが新型コロナウィルスの空気感染やエアロゾル感染を否定しています。もちろん医療機関での人工呼吸器等の使用時は別問題です。主な感染経路は、感染している人から飛び出した飛沫が落下、付着したところを触る接触感染です。ところが「感染経路がわからない人が増えている」と言った報道があると「やっぱり空気感染!!!」となっていないでしょうか。
 残念ながら亡くなってしまった志村けんさんを引き合いに、「3密」が危険。人に近づくな、人と近距離でしゃべるな、換気をしろと言われていますが、「3密」の状況での感染拡大も接触感染で十分説明ができます。
 「濃厚接触者」という言葉も誤解を与えていて、一緒にいた人の中に感染源となった人がいるような錯覚を与えています。しかし、感染源は実は「前の日にその人たちと同じ空間を利用した人」かもしれません。だからこそ「感染経路がわからない」ということになります。では、何に着目し、事態の終息を目指せばいいのでしょうか。

●「環境の中の総ウィルス量」という考え方
 新型コロナウィルスに感染しないために個人が感染予防に気を付けることが基本です。東京都も「接待を伴う飲食店などで感染した可能性があるので、当面行かないよう呼びかけ」と報道しています。しかし、終息を見据えた対応を考えるためには、「個人」ではなく「集団」としてどのような状態を目指すべきかという視点が重要です。
 人が暮らしている環境、空間に目を向け、そこに存在するウィルスの量をイメージしてください。無数のウィルスがあちらこちらに付着している場合と、ここに少し、あちらに少し、と少量のウィルスが、限られた環境にしかない場合では感染リスクが大きく異なります。すなわち、人が暮らす環境に、空間に存在するウィルスの総量が少なければ少ないほど接触感染のリスクは下がります。渋谷のスクランブル交差点を渡っていると必ずと言っていいほど他人に触れますが、田舎の田んぼ道だと、人と会うことの方が少ないです。感染拡大を終息に向かわせるために、どうやって環境の中に存在するウィルスの絶対量を減らせばいいのでしょうか。
 
○感染した人が出すウィルス量
 新型コロナウィルスに感染した人がたどる5つのパターンと、その際に排出されるウィルス量( )です。症状が少なければ排出するウィルス量は少なく、重症化すればするほど排出するウィルス量は多くなります。
 
 1 感染 → 発症 (中)→ 重症化(多)→ 死亡
 2 感染 → 発症 (中)→ 重症化(多)→ 治癒 → 免疫獲得
 3 感染 → 発症 (中)→ 治癒 → 免疫獲得
 4 感染 → 無症状(少)→ 免疫獲得
 5 感染 → 無症状(無)→ 免疫獲得
 
 シンプルに考えれば、免疫獲得を獲得している人はウィルスに暴露されても感染しませんので発症も、重症化もしません。免疫がなければもらうウィルス量が少ないほど軽症で済み、多いほど重症化するリスクが高まると考えられます(もちろんご本人の免疫力や基礎体力、持病、喫煙歴等々も影響しますが)。ちなみに、私は幼児期の予防接種の際、注射器の使いまわしが行われていた世代のため、B型肝炎ウィルスに感染しました。ただ、幸いなことに暴露されたウィルス量が少なかったからか、抗体はできたのですが、いわゆるB型肝炎ウィルスの持続感染者にならずに済んでいます。
 すなわち、感染する際に体内の取り入れるウィルス量を減らすことで感染した人が軽症で済み、その人が環境中に排出するウィルス量を減らすことになります。だから、手洗い等で体内に取り込むウィルス量を減らすことがその人からの感染拡大を減らすことにもつながります。

●集団免疫とは
 新型コロナウィルスには今のところワクチンはありません。しかし、これまでにウィルスに感染し、治癒された方はその時点でワクチンを打ったと同じ免疫を獲得した状態になっています。
 例えば誰も免疫を持っていない10人が、ウィルスがあちらこちらに付着している環境(例えば、飲食やカラオケをした店のドアノブ、机、椅子、トイレのドアノブ、等々)を利用したとします。10人全員が手洗いに無頓着だと多くの人が感染して発症することでしょう。しかし、手洗いをとりあえずする人は発症を免れ無症状感染に、手洗いを丁寧にする人は免疫獲得だけにとどまる可能性があります。すなわち、手洗いを丁寧にする人を増やしておけば、感染暴露が続いたとしても、結果として重症者は減り、免疫を獲得する人が増え、集団自体が免疫を獲得していくことになります。

○隔離政策の意味と弊害
 いま、諸外国ではロックダウン、日本では首都圏封鎖と言ったことが言われています。人と人の交流を遮断する意味は唯一「感染する人を減らす」ことです。もちろん爆発的な患者増が起これば医療機関はパンクし、人工呼吸器やECMO(人工心肺)が不足し、助かるべき人も助けられない可能性が高まるので、ロックダウン自体は医療の確保といった目的が明確であれば大事な選択肢です。しかし、ロックダウンの弊害もあります。集団免疫の観点から考えると、集団免疫を獲得するまでの時間を先延ばしにすることになり、結果として感染拡大の終息時期が先送りになります。
 このように、何を優先事項として考え、何を目指すのかを明確にすれば、終息への歩みを着実に進められるのではないでしょうか。しかし、トピックスに飛びつくような対応を繰り返している限り、結果として終息への歩みを遅らせてしまいます。着実にできることは何か。私は丁寧に、食事の直前の手洗いを励行したいと思います。