紳也特急 292号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,292  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『自分だけ依存』~

●『生徒の感想』
○『依存とは』
●『SNSのありがたさ』
○『依存症の中心には痛みがある』
●『反抗期の痛み』
○『「自分だけ依存」にならないために』
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●生徒の感想
 
 今まで芸能人や大学生が薬物で捕まった、というニュースに馬鹿すぎと思ってたが、その人たちは孤独や同調圧力からなのかと考えるとヤパい奴ではなく、受け止め方が変わって共感したり、身近に感じたりした。(高2女子)

 いつも学校で友達と話している下ネタの話は、ただ面白いだけだと思っていましたが、性のことについて話すことができる友達がいるというのは、とても精神面で大切だということが分かりました。(高1男子)
 
 凄く自分の中で正解が広がりました。お話を聞く前までは、エロいはなしとかになるといつも気まずくなっていました。でも、先生みたいな方がいると知り、そんなことどうでもよくなりました。また二次元について理解があるのは驚きでした。ぜひ語り合いたいです。(高2男子)。
 
 オナニーで相談する男の子との会話も面白くて笑いっぱなしだった。その話の中で、痴漢や強姦のAVを1人で見ていたら勘違いし、犯罪に繋がるケースがあることに驚いた。そんなに男性はセックスをしたいもの?1度男の子の体になって体験してみたい。オナニーじゃ満足しないの、できないの?(高2女子)
 
 先生の引き付けるようなお話のおかげで、考えることが大事なのだと知ることができました。(中3男子)
 
 考えることは本当に大事ですが、皆さんはどのような場面で考える機会を得ているのでしょうか。私は講演の準備をしたり、実際に講演をしたり、さらにはいろんな質問を受けたり、相談を受けたりすることを通していろんなことを考え続けさせてもらっています。講演会も復活し、いろんなやり取りを通して「依存症」について考える機会が増える中、自分だけにしか依存できず、他者に依存できない人が増えているように感じましたので今月のテーマを「自分だけ依存」としました。

自分だけ依存

○依存とは
 広辞苑で「依存」を調べると「他のものをたよりとして存在すること」とありました。確かに子どもの頃は基本的に親に、保護者に、周囲の大人にたよりながら生活、成長していきます。しかし、思春期になればそれまでの依存から脱却する過程として反抗期を迎え、親だけではなく、社会の様々なことに対して疑問を持ったり、反発したりするようになります。ここで参考になるのが熊谷晋一郎先生の言葉ではないでしょうか。
 
 自立は依存先を増やすこと
 
 子どもが成長し、親離れの時期を迎える際に経験する反抗期は、裏を返せば親からは一定の距離を取りたくなる一方で、他の依存先を得て、自立へと向かう過程と考えると納得できます。一方で親離れをしようとする時に、他の人が依存先になるのではなく、ゲームやスマホ、SNS、ネットが依存先になると様々な依存症になってしまうのでしょうか。

●SNSのありがたさ
 実は先月、突然の腰痛を経験し、整形外科に駆け込んでいろんな検査をしてもらいつつ、痛み止めを処方してもらい、何とか仕事をこなしていました。そんなことをFacebookに書き込んだところ、多くの方に心配をしていただく中でストレッチの大切さを教えてくださった先生がいました。実はここが大事で、医療を過信してはいけないということを改めて実感させられました。検査で明らかにここが悪い、ここが原因というのがなかったことから、原因の一つとしてその前の3週間ほどずっとパソコンに向かい、体をほとんど動かしていなかったことを思い出すきっかけになりました。ストレッチをしつつ、主治医に運動不足の話をしたところ(先のアドバイスがなければしていなかったと思います)、腰痛の運動療法として体幹の筋トレを勧められました。ストレッチと筋トレを真面目にやってみたところ、少しずつ改善に向かっています。SNSでこのように大変ありがたいアドバイスをいただけたことに感謝する一方で、もしこのようなアドバイスに接することがなければ、ここまで改善しえなかったと思いました。
 一方で同じSNSを使っていても、SNS依存、スマホ依存、ネット依存になる若者たちも少なくないのが実情です。では、SNSも、スマホも、ネットも、ゲームも、アルコールも、上手に付き合える人と依存症になってしまう人の違いは何なのかを考えていた時に次の言葉を教えてもらいました。

 依存症の中心には痛みがある。
 
 妙に納得できる言葉だと思いませんか。

○依存症の中心には痛みがある
 インターネットの専門家の友人、宮崎豊久さんが教えてくれたEdward J. Khantzianという精神科医の言葉です。早速この先生の著書“Understanding Addiction as Self Medication: Finding Hope Behind the Pain” を取り寄せましたがまだ届いていません(12月末予定)。しかし、このタイトルだけでも多くの示唆をいただけます。
 依存症は自己治療(自己手当)である。すなわち、アルコール依存症も、薬物依存症も、その背景には、その中心にはその人の痛みがあり、アルコールも、薬物も、それこそゲームも、スマホも、SNSもその人の自己手当である。もちろんそれは適切なレベルの手当てではないのですが、ご本人はそれで楽になっているのは何となく納得できます。一方でその痛みを乗り越えるには、痛みの裏に隠れている希望を見つけることが大切であるとも教えてくれています。すごく納得ができるだけではなく、説得力があると思いませんか。

●反抗期の痛み
 いま、反抗期がない若者が増加しているとの指摘が少なからずあります。その理由についていろんな人がいろんなことを言っていますが、子ども、若者自身にとって反抗期というのはある意味「痛み」と表現できると思いました。そしてその痛みから逃れたくて「反抗」をする人たちが多かった時代に「反抗期」という言葉が生まれ、「反抗期の子どもに、若者にどう接すればいいか」を悩んだり、「放っておけ」となったりしていました。反抗期を脱することができた子どもたち、若者たちが自立した状況を見ると、それこそ自分自身のことを考えると、まさしく「自立は依存先を増やすこと」であり、親離れのためには自分の世界を広げることが大事だということが理解できます。で、実際にどうやって自分の世界を広げたか、依存先を増やしたかを考えると、いろんな仲間をいろんな方法でつくってきたでしょうし、昔はその手段は対話、会話を含めた関係性づくりがベースにありました。
 ところが、いま、その反抗期に差し掛かる年齢の時に子どもが、若者が手に入れるものがスマホやゲームです。もちろんスマホを使いながら、ゲームをしながら、SNSで上手に仲間を作っている人もいれば、それが上手くいかず、反抗期の痛みを避ける手段としてスマホ依存、ネット依存、ゲーム依存になる子どもが、若者が少なくないと考えると、何となく納得できませんか。

○「自分だけ依存」にならないために
 依存症の中心に痛みがあるという言葉に学ぶとすれば、痛みをどう乗り越えるかが大事になります。今回、腰痛を乗り越えるため、鎮痛効果が優れているロキソニンを処方してもらいましたし、それで助かった部分もありましたが、当然のことながら鎮痛剤だけに依存していると鎮痛剤依存症になるだけでした。根本的な解決のためにはやはり痛みを回避することが不可欠でした。
 「自立は依存先を増やすこと」の裏返しが「自分だけ依存」と考えると、様々な依存症の根本原因が「自分だけ依存」と言えるのではと思いました。そして「自分だけ依存」にならないためには、いろんなつながりを作り続けるしかありません。でもつながりを「うざい」と感じ、「居心地がいい自分だけの世界」にはまってしまうとなかなかそこから抜け出せません。
 昔のように成長と共に体の内から湧き出た反抗期を一人でやり過ごす手段としてのゲームも、スマホも、ネットもなかった時代は、自ずと仲間とつるみ、気が付けば依存先を増やせたのに対して、今は反抗期さえも経験できない怖い時代になったのかもしれません。自分だけ依存にならないためにも、やっぱり反抗期は大事なようです。