紳也特急 286号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『不要不急の外出はない』~

●『生徒の感想』
○『きょうよう、きょういくの大切さ』
●『犯罪予防も健康づくりの視点で』
○『自分の責任を考える難しさ』
●『バナナ320本で死ぬ』
○『対話で確認を』
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●生徒の感想
 
 岩室先生はたくさん経験して、たくさん失敗して、失敗したことにしっかり気づいて、そこからたくさん学んで今につながっていてすごいと思いました。(高2女子)
 
 「3密を避けろ」と言われ続け、当たり前のことなのに、「背中合わせで話せばOK」ということを考えてすらいませんでした。(中3男子)
 
 成績を伸ばすためには先生の話をよく聞けばいいという話は本当にその通りだと私も感じました。英語や数学は全然聞いていないのでテストの点が悪いけれど、自分が好きな教科は死ぬほど集中して先生の言葉を一言も逃すことのないように聞いているので、比較的テストの点もよいんだろうなと納得しました。(高2男子)
 
 オンデマンド授業になった当初は朝早くに起きて学校に行かずに済んで良かったと思っていたが、一か月ほどで一人家にいることに退屈さを感じてきた。久々に登校したのはテストの日であったが、次の日も試験があるにも関わらず友達と1時間も立って話したのは思い出深く、人と触れ合うことの幸せを痛感したあの感覚は今でも鮮明に覚えている。誰かと話せる環境や自分の居場所があるだけで多くの人が壁を乗り越えられると思う。つまり、“不要不急の外出”は人間の本質的には存在しないのではないかと私は思う。外に出て日光を浴びて人と会って話すことは人間が生きていく上で必要なことである。(女子学生)
 
 情報を受け入れつつ、友人に話して自分の認識が合っているのかを確かめることが大事とおっしゃられていたことが印象的でした。(高2女子)
 
 一見つながらない感想を羅列したように思われたかもしれません。しかし、私の中ではどれも自分自身が経験してきた事象につながり、最終的には今月のテーマにもつながりました。失敗や悔しい経験に学ぶことは容易ではありません。学ぶためには何より人の話を聞きながら考え続けることです。そのためにも人と会い、自分の考え方との相違に気づけると次なる道が開かれます。
 “不要不急の外出”は人間の本質的には存在しない。本当にその通りです。コロナ禍で繰り返し発信し続けられた“不要不急の外出は控えてください”というメッセージが世の中の様々なトラブルの根底にあるのではと思えます。そこで今月のテーマを「不要不急の外出はない」としました。

不要不急の外出はない

〇きょうよう、きょういくの大切さ
 5月はこのメルマガを発行し続けてくれている渡部さん、陸前高田市の戸羽太前市長、THINK ABOUT AIDSというラジオ番組を長年続けてきた仲間をはじめ、いろんな人と飲む機会をいただきました。コロナ前だったら当たり前の飲み会が制限され、閉店に追い込まれた行きつけのお店もある中、カールロジャーズの言葉、「人は話すことで癒される」を痛感しています。一つひとつの出会いが「不要不急」ではなく「必要不可欠」であり、きょうよう、きょういくの大切さを再認識しました。教養、教育ではなく、今日の用、今日行く所があって初めて人はこころを病まずにいられます。少なくとも私はそうだと思いました。
 
●犯罪予防も健康づくりの視点で
 長野県中野市で4人が亡くなられた事件。犯人が被害者の女性が「独りぼっちをバカにした」と一方的に恨みを抱いたと報道されています。裏を返せば本当に独りぼっちだったのでしょう。犯罪報道でマスコミは常に「動機は?」という視点で原因を探りますが、今回の事件に限らず、京アニ事件、津久井やまゆり園事件、座間の9人殺害事件、秋葉原事件、等々、多くの人が理解に苦しむ殺人事件が繰り返されています。もちろん犯人が悪いのですが、これらの犯罪を予防するという視点はほとんど聞きません。敢えて聞くとしたら厳罰化ですが、死刑以上の厳罰が無い以上、別の方法で予防を考える必要があります。紳也特急216号で「犯罪予防も健康づくり」を書かせていただきましたが、未だにそのような発想は広がりを見せていません。

〇自分の責任を考える難しさ
 新型コロナウイルスが5類となり、定点把握のデータでも再び感染者数が増え始めています。感染者数を増やさないためには、全員が感染経路対策を徹底するか、80%以上の人が感染かワクチン接種のいずれかで免疫を獲得するかしかありません。
 新型コロナの予防を考える上で宮崎や大分の高校で500人規模のインフルエンザの集団感染が起きたことに学びたいものです。コロナもインフルも感染経路は同じで、これだけ大規模な感染が起きたということは、500人がお互いに飛沫を掛け合ったり、落下した飛沫やエアロゾルでの接触(媒介物)感染が起こったりしたとは考えられません。今回はエアロゾル感染対策が不十分な環境を共有していたと思われます。その理由として考えられるのが、空気の流れを創ってエアロゾルを外に排気するという意識が相変わらず浸透していないことです。文部科学省の最新の通知も「適切な換気の確保」としか書かれておらず、「適切」の意味は紹介していません。
 感染が繰り返され、クラスターが続くと、私は自分自身の普及啓発力の無力さを繰り返し反省させられます。しかし、普及啓発をしている人の多くはそのような発想を持たず、感染した人がちゃんと言っていることを守らない、自己責任だと思っているようです。
 殺人が繰り返されている現実、現状に対して「犯人の動機は」「家族の育て方は」と当事者だけに責任を押し付けていないでしょうか。マスコミでコメントをしている人たちも、それを見ている一人ひとりも、自分自身ができることは何かを考え、その責任の一端でも果たそうと思えば、犯罪の予防も少しずつは進むのではないでしょうか。しかし、予防対策の効果、結果は絶対に見えませんのでそんなことやってられないとなるのでしょうね。

●バナナ320本で死ぬ
 2023年5月29日の読売新聞に、小学5年生の生徒が「バナナ320本を食べると死ぬ」というネット上の都市伝説を給食にバナナが出た際にクラスメートに伝えた話からネット情報に翻弄される子どもたち、授業に支障を来している教育現場の問題、さらには脳の成熟より「本能」が先行しているといった記事になっていました。
 昔から都市伝説はいろいろありましたが、口コミのものばかりでそれらを仲間で議論したものでした。ところが最近はYouTubeをはじめ、ある意味しっかりした映像になっているものが多く、判断能力だけではなく、家族や友達を含めた判断をするための対話的環境が弱い子どもたちはもちろんのこと、多くの人たちの間で都市伝説を信じ込む人が増えていても不思議ではありません。「目から入った情報はわかったような気になり、耳から入る情報は想像力を育み記憶に残る」という北山修先生の言葉を思い出していました。本当にその通りですね。

〇対話で確認を
 最初に紹介した高2女子の感想「情報を受け入れつつ、友人に話して自分の認識が合っているのかを確かめることが大事とおっしゃられていたことが印象的でした」を読ませてもらって、ちゃんと私の思いを受け止めてくれたことをうれしく思うとともに、これは感染症対策や犯罪予防などにも当てはまる、これから伝え続けなければならないことだと再認識しました。
 カールロジャーズは「人は話すことで癒される」と言っていますが、癒されるだけではなく、自分自身の勘違いや誤解をも修正してくれます。これからもいろんな人たちと対話を重ね続けたいですし、きょうようときょういくの必要性を繰り返し伝え続けたいと改めて思いました。

紳也特急 285号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『中途半端』~

●『生徒の感想』
○『普及啓発の矛盾』
●『出るウイルス量と感染するウイルス量』
○『漂うものも最後は落ちる』
●『手から食べ物、そして口から肺へ』
○『手からマスク、そして肺へ』
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●生徒の感想
 
 依存症は孤独の病気だと話していて、自分もゲームが好きで、家にいる時はよくゲームをしていて、前に少しだけ何でゲームをするのかを考えたら、家にいると誰とも関わらないからだと思ったことがあって共感出来ました。でも、学校に行って、友達と話したり、サッカーをする方が楽しいので、それで依存症にならなかったのだとわかりました。でも友達などと関わっているといいこともあればよくないこともあるので絆(きずな)のもう一つの読み方(ほだし)も知ることができてよかったです。(中3男子)

 奇抜な話題が目立つ講和でしたが、そこの本質は先生がおっしゃっていた「孤独」という病があるのかな、と考えさせられるお話でした。思えば昨今の世の中、性的な話題はともかく、抜本的な性教育までもがはばかられる始末で、こういった物事に対する具体的な対話が難しいがために間違った脅し文句のような広告で知識が広まることが少なくないと思います。だからこそ“保健講和”という形で意見交流の場を提供していただいたことが、とりわけてそういった経験則にも疎い高校生にも刺さったのだと思います。誰しもが社会コミュニティでの生活を求めているものだなと改めて深く感じ取るきっかけになりました。今日はありがとうございました。(高2男子)
 
 私は小学校に入学してから卒業近くまで、幼稚園では仲の良かった人、数名にいじめられていた。しかし、日々された嫌なことや言われたことははっきりと覚えているが、自宅に帰ってから両親に言おうか考えたりしたことはなく、更には自宅で、学校であったことを思い出していた覚えもない。その後、小学校6年生の頃に、周囲の友達がいじめを先生に伝えてくれ、先生や両親に事実が知られることになった。「どうして6年間も言わなかったのか」「よく6年間も耐えられたね」と何度も聞かれ言われたが、それに対しては自分自身でも疑問であった。されたことに対する嫌な感情は今でも覚えており、その人のことを考えるだけで否定的な気分になるが、自宅に帰ると平気だったのはなぜだろうか。講義を通して、それは自宅や両親、家族の存在が大きくて暖かく、かつ唯一の居場所であったからだと、すとんと腑に落ちた。何をされても声をあげずに6年間過ごせて良かったとは到底考えてはいないが、改めて自分自身には最初から居場所があったことが救いであったのだと痛感した。(女子大学生)

 岩室先生の講話を聴いて、「学びて思はざれば則ち罔し。思ひて学ばざれば則ち殆し」という言葉を思い出しました。自分一人で考えたり、逆にインターネットの情報をそのまま鵜呑みにしたりすることの危険性が身に沁みて分かった講和でした。(高2男子)
 
 同じような講演をしていても、当然のことながら一人ひとりの受け止め方は違います。これが普及啓発の難しさでもあり、自分自身の学びにもつながるありがたい機会でもあります。皆さんは「学びて思はざれば則ち罔し。思ひて学ばざれば則ち殆し」の意味をご存じでしょうか。私はよくわからなかったので改めてネットで調べ、「教わるばかりで、自分で考えることが少ないと力はつかない。自分で考えてばかりで、人に学ばないようだと、考えが偏るので危険このうえない」ということの意味を考えさせられました。いろんな人と対話をしながら、繰り返し考え続けることが新たな気づきにつながるのです。
 しかし、残念ながらこの3年間の新型コロナウイルス対策はいろんな意味で対話も、考え続けることも中途半端だったと言わざるを得ません。そこで反省の意味を込め、今月のテーマは「中途半端」としました。

中途半端

○普及啓発の矛盾
 このメルマガが発行された1週間後の5月8日(月)から新型コロナウイルス感染症は感染症法上の2類相当から5類に移行し、季節性インフルエンザと同じ扱いになります。そこで改めて新型コロナウイルス感染症に対して国民がとっている行動と、岩室がこれまで予防で伝えようとしてきたことのズレ、矛盾に気づかされています。
 3月13日にマスク装着が個人の判断となりましたが、結果的に今まで同様、多くの人が屋外を含めてマスクを装着し続けています。一方で感染した人たちが持っているN抗体の保有率は上昇をし続け、全世代平均で2022年11月に29%だったのが2023年2月時点で42%へと確実に増え続けるといういい方向に向かっています。ちなみにイギリスではすでに80%を超えています。これだけ多くの人がマスクをしているのに感染する人が増え続けているのはなぜなのでしょうか。それは、マスクをしていても感染する経路と、マスクをしているから感染する経路について考えなさいと言われているように思いませんか。

●出すウイルス量と感染するウイルス量
 インフルエンザウイルスに感染している人が1回のくしゃみで排出するウイルス量は200万個。1回の咳で10万個。インフルエンザウイルス感染者のくしゃみをあびて感染する確率は100万分の1。アカゲザルが新型コロナウイルスにエアロゾルで感染するのに必要なウイルス量は数千個から数万個。いろんな方にこれらの数字は教えていただき「そうなんだ」としか思わず、深く検証することを怠っていました。まさしく「学びて思はざれば則ち罔し。思ひて学ばざれば則ち殆し」でした。
 一番考えなければならなかったことは、「くしゃみ」や「咳」だけではなく、そもそも「呼吸」の際にどれだけのウイルスがエアロゾルという形で出続けているかということでした。くしゃみで200万個、咳で10万個だとすると、普通に息をしていれば1分間とは言いませんが、一定時間で数万個は出すのではないでしょうか。しかも、咳やくしゃみの場合は大量にウイルスを含んでいる大きな飛沫はすぐに落下するのに対して、軽い空気中をさまようエアロゾルはその空間の中で濃度を高め、結果として感染するリスクを増やし続けます。こう考えるとエアロゾル対策は本当に重要です。

〇漂うものも最後は落ちる
 エアロゾルは空気の流れを創って拡散、排気しなければ漂い続けますし、マスクをしていても顔とマスクの隙間から口、鼻、肺へと吸入され続けます。でもエアロゾルは1時間もすれば落下します。ここで大事なことは、感染している人が閉鎖空間の中に居続ければその人が排出するエアロゾルがその空間で落下をし続けるということです。雪が降り続ければ積もるように、エアロゾルも、見えないものの落下し、積もり続け、その量は時間とともに増え続けます。落下したウイルスの感染力は1日程度持続します。家庭内感染を調査した論文では、ドアノブや家族が頻繁に触るところからウイルスが検出されたとしていますが、それは感染している人が咳を止める時に手に付着したウイルスをドアノブにつけているだけではなく、家族が落下したエアロゾルを手に付け、それをドアノブにつけた可能性を裏付けるとも言えます。すなわち、感染している人と同じ空間を共有していれば誰の手にもウイルスが付着するということです。だからこそ、接触(媒介物)感染対策が重要になります。

●手から食べ物、そして口から肺へ
 手についたウイルスを洗い落とさずに食べ物に付着させて口にすれば、口腔内にあるACE2レセプター経由で新型コロナウイルスが体内に取り込まれる可能性があることはこれまで伝え続けてきました。しかし、ここで気づかなかったことがありました。皆さん、口に食べ物を入れ、噛みながら味わっているとおいしい香りも味わえますよね。すなわち、食べ物に、料理に付着したウイルスは口腔内で再びエアロゾル化して肺の中に吸い込まれている可能性があります。すなわち、接触(媒介物)感染にはエアロゾル感染という要素もあるということです。

〇手からマスク、そして肺へ
 マスクをしている人がマスクの表面を触っているのをよく見かけます。子どもたちではそのような光景が頻繁に見受けられますが、マスクを触っている指先は当然のことながらいろんなところに触れていて、指先にウイルスが付着している可能性があります。すなわち、手や指に落下したエアロゾルや飛沫の中のウイルスを付着させ、それをマスクの表面に届け、全部ではないものの、少しずつマスク越しに吸入し肺に届けているのです。すなわち、この感染経路は広い意味で接触(マスク媒介)感染となります。
 これまではこのような場面は予防を考える上で問題だと指摘し続けてきました。しかし考え方を変えるとマスクを触るというのはその指をなめるよりは少ない量のウイルスで免疫をつける立派な予防法なのかもしれません。これからは「マスクの表面を触ることは感染するリスクはありますが、マスクにつけるウイルス量が少なければ感染免疫をつけることにつながるのであまり神経質になる必要はありません」と言わなければならないのでしょうか。
 結局のところ、感染予防は本当に奥が深く、中途半端な感染予防対策のように見えていることも、視点を変えると感染予防の一つの選択肢として尊重されるべきなのだと思いました。皆さんはどう思われますか。私は考え続けたいと思います。

紳也特急 284号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『リアルだから響く』~

●『生徒の感想』
○『マスクを外さない、外せない日本人』
●『マスクなしがなぜ響く』
○『ChatGPTが教えてくれるマスクの効用』
●『マスクで感染が増えている?????』
〇『考えることを放棄しない』
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●生徒の感想

 岩室先生の話はとても説得力があり、コロナの感染のことなど、先生の話の中で新しい知識になったこと、元の知識を改めて確認できたことも多くあり、自分はあまり講演が好きではないのですが、今回スクリーンを使わず、私達の意見を聞きながら、話題を広げていき、とても色々なことを話しているのに、とても聞きやすく、印象に残る講演会でした。(中3女子)

 経験したか らこそ分かる人間関係や心理を知る事ができて、今まで考えたことがなかったことを考える機会になりました。(中3男子)

 冒頭にお話してた家族葬について共感しました。小さい頃に葬式には行ったことがありますがあまり覚えてません。中学生の時に1度親戚の葬式に行きましたが初めてのような感覚でとても悲しく切なくなぜ?とも思いました。その時に初めて学んだ感情でもありました。(中3女子)

 今回の講義を終えて、改めて人を今までの経歴ではなく人柄でみようと思いました、ゲイや依存症も差別的な考えはやめようと思いました。(中3男子)

 僕も大きさを気にしていたのですが、「持ち物より持ち主」で安心しました。(中3男子)

 本校の包茎代表という 異名をもらい 嬉しく 思います。岩室先生のお話は私からもお金を払いたいぐらい大切なお話でした。握手した時に手汗があったのであの時ハグをしたかったです。(中3男子)

 マジで必死に笑いをこらえた。さすがに下ネタは耐久出来たが限界で笑い狂った。やっと笑いがおさまった。下ネタに耐えるがんじょうな体にしたい。(中3男子)

 2月後半から3月にかけて中学校、高校での講演をいくつもさせてもらったのですが、以前よりすごくいい反応をしてくれました。ある高校では先生たちが「この子たちがあんなに反応するとは思ってもいませんでした」との声をいただきました。そこでふと思ったのが「マスクをしていない人の話を聞けなかった3年間」でした。私は事前に「飛沫は2メートルしか飛ばないから最前列とは2メートル以上の距離をとっている」ことや、「岩室が排出するエアロゾルを拡散するために首振り型携帯扇風機を持参していること」を説明した上でマスクを外して講演をしています。そうすると生徒さんたちは安心するだけではなく、マスクなしの岩室の表情を楽しめるようです。
 そこで今月のテーマを「リアルだから響く」としました。

リアルだから響く

〇マスクを外さない、外せない日本人
 2023年3月13日から「マスクは個人の判断で」となりましたが皆さんはどうされていますか。私は患者さんの診察時以外では、電車、屋内での買い物時を含め外しています。講演の際にマスクを外すと生徒さんの目線はまるで「人間ってこんな顔をしていたんだ」と言わんばかりです(笑)。一方で電車や屋内はおろか、屋外でもマスクを外さない、外せない日本人が多いのは何故なのでしょうか。
 多くの人から見ると、マスクをしないで電車に乗っている私は「非常識」な存在に映っていると思います。しかし、誰ともしゃべらず、パソコンで原稿を打っているだけなので、マスクで自分が排出する飛沫を気にする必要もなければ、マスクをしていないためかえって周囲の人たちにエアロゾルを吸入させてしまうリスクを下げているのです。しかも、窓が開いている近くに座り、エアロゾルの拡散、排気を意識していますが、そのように考えながら電車に乗っていることに誰一人気づかないでしょうし、「何言っているのかわからない」と言われそうです(笑)。

●マスクなしがなぜ響く
 精神科医の斎藤環先生が「対話とは、面と向かって、声を出して、言葉を交わすこと」と教えてくださっています。一方で常々「人は経験に学び、経験していないことは他人ごと」と伝えるようにしています。

 「経験」を広辞苑で調べると次のように書かれています。
 ①人間が外界との相互作用の過程を意識化し自分のものとすること。人間のあらゆる個人的・社会的実践を含むが、人間が外界を変革するとともに自己自身を変化させる活動が基本的なもの。
  ㋐外的あるいは内的な現実との直接的接触。
  ㋑認識として未だ組織化されていない、事実の直接的把握。
  ㋒何事かに直接ぶつかる場合、それが何らかの意味で自己を豊かにするという意味を含むこと。
  ㋓何事かに直接にぶつかり、そこから技能・知識を得ること。
 ②〔哲〕感覚・知覚から始まって、道徳的行為や知的活動までを含む体験が自覚されたあり方、またその状態。

 私が中高生向けの講演で、対面で、マスクなしで話すのは、単に情報を伝えるだけではなく、自分自身の失敗談を含め、自分やいろんな人の経験を伝える時、言葉だけではなく、その時の気持ちを思い出しながら自分の表情を見せながら話すことで、よりリアルに、直接的に思いが伝わると思っているからです。
 3月まで放送していた朝ドラ「舞いあがれ」で興味深い経験をさせてもらいました。最終週が新型コロナウイルス感染拡大の第1波の時期の設定で、出演者がマスクをしている場面が流れたのですが面白いほどセリフにリアル感がありませんでした。どの役柄もコロナに翻弄され、苦労をし、お互いに気遣い合う場面なのですが、マスクで顔が隠れているためか、これほどまでに感情が伝わらないのかと思いました。

〇ChatGPTが教えてくれるマスクの効用
 ChatGPTに「マスクの効用について教えてください」と入力すると次の答えが返ってきました。

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マスクには、以下のような効用があります。
1.感染症の予防:マスクは、呼吸器系の感染症の予防に効果があります。感染症の原因となる細菌やウイルスが飛沫や飛沫核として咳やくしゃみ、話し声などで放出されるのを防ぎ、他者への感染リスクを低減します。
2.環境汚染物質の除去:マスクは、PM2.5や花粉などの環境汚染物質を除去する効果があります。マスクのフィルター部分が、空気中の微小粒子を吸着して取り込むことによって、呼吸器系への影響を抑えることができます。
3.季節性のアレルギー症状の緩和:マスクは、季節性の花粉症などのアレルギー症状の緩和にも効果があります。マスクが鼻と口を覆うことによって、花粉や他のアレルゲンが体内に取り込まれるのを防ぐことができます。
4.呼吸器系疾患患者の保護:マスクは、呼吸器系疾患患者にとっても有効です。感染症やアレルギー症状の悪化を防ぎ、症状の緩和につながります。
以上のように、マスクには様々な効用があります。ただし、マスクを適切に使用するためには、正しい装着方法や使用期限などについても注意が必要です。
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 膨大な情報を集めたAI(ChatGPT)は、「他人にうつさない効果」はちゃんと示してくれますが、「マスク装着者がうつらない効果」については言及していません。

●マスクで感染が増えている?????
 マスクが装着者の感染予防になるということを否定するつもりはありません。確かに目の前にいる人がマスクをしないまま私が口を開けている時にくしゃみをしたら飛沫が私の口から入ることでしょう。しかし、多くの人はそのような場面ではなく、小さい飛沫で空気中をさまようエアロゾルを吸い込むことが何となく怖いと思っているのではないでしょうか。でも、エアロゾルは拡散すれば吸い込む量は減りますし、マスク越しで入るエアロゾルは防げても、マスクと顔の隙間から入るエアロゾルは防げません。一方でマスクの表面をウイルスが付いているかもしれない指で何度も触っている人が後を絶ちません。最近感染者数が増え始めているという指摘もありますが、もしかしたらマスクをすることで周りにエアロゾルをばらまいていることや、マスクの表面をウイルス付きの指で触っていることが感染が増えている原因ではないかと思ったりしています。

〇考えることを放棄しない
 そもそもマスクは何のため?
 この質問を掘り下げられる人と、掘り下げられない人の違いは何だろうかと考え続けている中で、コロナが広がり始めた時に、政府の専門家委員会に入っている先生が言った一言を思い出してしまいます。

 岩室先生と考え方が違いますから。

 対話にならない、対話ができないこの人が政府の専門家委員会で持論を展開し続ければ、当然のことながら「そもそもマスクは何のため?」といった基本的な議論は生まれません。
 リアルというのはある意味自分自身が直接問われる厳しい場面ですが、そこを乗り越えると思いが伝わることをリアルに接してくれた中高生が改めて私に教えてくれました。4月からもまたリアル講演が続きますが、真剣勝負と思って頑張りたいと思います。マスクのない日本を目指して。

紳也特急 283号

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Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『同調圧力』~

●『生徒の感想』
〇『なぜ異性愛者?』
●『理解増進法案?』
○『個人の判断が基本?』
●『考えてはいけない』
○『周りに合わせます』
●『できることを考える』
○『3年後を考える』
●『同調圧力に屈しないのはなぜ?』
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●生徒の感想
 私はあまりみんなに知られていないのですが、私は男子なのですが男子のことが好きになってしまいます。今回の講演会で出てきた「ゲイ」ということですよね?私が生きていく中でどのように生きて行けば良いのでしょうか?(中3男子)

 自分は女子として生まれ、物心がついたころからあまり女子らしいことが好きじゃなく男子のように過ごしてきた時、母におかしいから辞めなさいと言われてからずっと悩んでいました。けど、今日の講演会であんまり悩むことはないのかなと思い、自信が付いたような気がしました。自分勝手な感想かもですが、岩室先生に助けられた気がします。今日はありがとうございました。(中3女子)
 
 自分で調べたり、保健の授業がないと学ぶ機会が少ないけれど、生きていく上でとても大切なことを学ぶことができてとてもためになりました。「LGBTを理解することはできないけれど、分かち合うことが大切」ということが、本当にそうだなと思い、周りの人はもちろん、自分も認めたいなと思いました。(中3女子)
 
 一番印象に残ったのが、「社会がそういう空気を作っている」という言葉でした。(中3女子)
 
 日本は空気を読むといった言葉や、忖度という言葉が流行した通り、周りと違う行動をとることが難しい国民性、文化があると思う。しかし、その文化に流されることなく、自分はなぜこの行動をとるのか、この人が発する言葉の背景には何があるのか、この行動をとることで相手に与える影響はどうか、自分はその行動をされて嬉しいのかなど自分に常に軸を向け、なぜを問い続けて考える癖をつけたいと思った。(大学2年女子)
 
 LGBT理解増進法案について国会内外で様々な議論、主張が展開されています。一方で3月13日からマスク着用は個人の判断にゆだねられることになりました。一見異なる事象のようですが、共通している根底の問題が「同調圧力」だと思いました。そこで今月のテーマを「同調圧力」としました。

同調圧力

〇なぜ異性愛者?
 ゲイの友達に「岩室さんはなぜ異性が好きなのですか?」と聞かれた時にその理由を説明することができませんでした。それ以来、「岩室は異性が好きな自分のことが理解できません。自分のことも理解できないのにLGBTQAの人について理解できるはずもありません。だから理解ではなく、お互いの存在を認め合う、分かち合うことが大事」と話し続けています。それが先に紹介した生徒さんの感想につながったと思います。

●理解増進法案?
 今の国会でLGBT理解増進法の議論が行われていますが、そもそも「理解増進」ということ自体が理解できません。「理解するのが、理解する努力をするのが当たり前」という同調圧力を感じます。一方で「自分は女と自認している男が女風呂に入ってきたらどうする」といった、法案づくりの過程でちゃん議論をすればクリアできることを取り上げ、むしろ議論を避ける方向に持って行こうとしているのではないでしょうか。そもそも、LGBTQAの方々のことを国会で議論するのであれば、人権の観点から、保健体育の教科書の中にきちんと性の多様性について記載し、さらに同性婚をはじめ、人として生きていく上での障壁を取り除く法律を作る必要があるはずです。しかし、日本では同性婚の議論は時期尚早という同調圧力があり、まずはこの辺りからということなのでしょうか。

〇個人の判断が基本?
 3月13日からマスクを着用するか否かは基本的に個人の判断となります。そのためのアドバイスとして厚生労働省のHPに次のように書かれています。

 高齢者など重症化リスクの高い方への感染を防ぐため、医療機関を受診する時、高齢者など重症化リスクの高い方が多く入院・生活する医療機関や高齢者施設などへ訪問する時、通勤ラッシュ時など、マスクの着用を推奨します。
 新型コロナウイルス感染症の流行期に重症化リスクの高い方が混雑した場所に行く時については、感染から自身を守るための対策としてマスクの着用が効果的です。
 
 マスクをすれば医療機関、高齢者施設、通勤ラッシュで出会う高齢者など重症化リスクの高い方への感染を、リスクの高い方が感染することを防げるとのことです。本当でしょうか。

●考えてはいけない
 今でもマスクを徹底しているのに医療機関や高齢者施設でクラスターが出続けていますが、そのことがほとんど報道されない、議論にさえならないのはなぜでしょうか。マスクをしているのにクラスターが発生するということは、マスクでは予防ができない感染経路対策が不十分だったということです。でも日本社会ではマスクが役に立たない場合があることについて、考えてはいけない、指摘してはいけない、議論をしてはいけない空気、同調圧力が存在しています。
 ある講演会の感想で高校生が「これから考えることを放棄しないようにしたいと思いました」と書いてくれましたが、確かに大人たちは「ぐずぐず言っていないで、大人が言うことを聞いて従っていればいい」ということを子どもの頃から子どもたちに叩き込んでいますよね。
 
○周りに合わせます
 3月13日以降、皆さんはマスクの扱いをどうしますか?「周りに合わせます」「周りの状況を見ながら決めます」という方が圧倒的に多く、同調圧力にとりあえず抵抗しないことを選択した結果だと思います。その選択を否定するつもりはありませんが、「周りに合わせる」という選択をする方は「周りに合わせない」という選択をする人が、なぜ合わせないのか、マスクを外している時に、どのような、自分が感染しない、自分から他者を感染させない対策を取っているかをぜひ考えてみてください。もっとも考えずに外す人も少なからずいるでしょうが・・・・・

●できることを考える
 岩室紳也は3月13日以降も講演会、研修会、診療がありますので、臨機応変に、ご一緒させていただく方への感染症対策を伝える手段としてマスクを扱いつつ、外したいと思います。既に実践していることですが、具体的に言うと次のようになります。
 
★挨拶時
・初めて会う方にはマスク姿でご挨拶
・すぐにマスクの意味を説明して外します

★講演会、研修会の場面
・最初はマスクで登壇
・講演の中で飛沫は2メートル先に落下、エアロゾルは空気の撹拌と排気が基本。距離があり、サーキュレーター代わりの小型扇風機を使っているのでマスクは不要と話します。
 
★診療の場面
・マスクで対応(病院の決まりなので)
・患者さんから聞かれたら、外してもいい理由を説明。直接向き合わなければ飛沫はお互いの顔(口、鼻、目)にかからない。エアロゾル対策として、診療室のエアコンの送風を下向きに固定して患者との間にエアカーテンがある状態にして、空気は部屋の両側のドアの下から排気。ベッドに寝かせたお子さんの診察を話しながらする際にはマスクは着用。

★屋内、電車等で
・マスクなし。
・飛沫を他者の顔(口、鼻、目)にかけない。
・咳が出る時は咳エチケット(肘で飛沫を受け止める)。
・新幹線、飛行機等で横に人がいる際には携帯型扇風機で空気の流れを創出。

〇3年後を考える
 中学3年生に話した時、ふと「3月13日以降もマスクを着け続けたいという人は、ぜひいつまでマスクをし続けるのかを考えてみてください」と問いかけてみました。もちろん、気が付けば新型コロナウイルスが消え、コロナ禍前の状況に戻ることがあればその時は外せるのかもしれません。しかし、そうならない時、マスクを外せないまま、3年後、高校を卒業し、就職試験、面接試験となった時、「私はとにかくマスクは外せません」と訴えるあなたを果たしてその職場は採用してくれるでしょうか。
 
●同調圧力に屈しないのはなぜ?
 中学生に「岩室さんはどうやって同調圧力に屈しない力を身につけたのですか」と聞かれました。その時思い出したのがケニアの小学生時代に「イエロー」といじめられていた時の経験でした。確かにいじめる人たちがいて、その人たちが集団になっていたのですが、それも同調圧力だったと思います。でも、その中で私に寄り添ってくれるドイツ人のクレメントという友人がいました。自分がいじめという同調圧力に押しつぶされなくて済んだのは、それに立ち向かってくれる友人がいたからでした。その経験から同調圧力には屈したくないと思うようになったようです。
 同調圧力は決してマスクだけの話ではなく、様々な問題の根底に流れている、考えることを放棄するというリスクの結果だと思っています。そのようなリスクを克服するため、私は3月13日にまずはマスクを外すことからコミュニケーションの機会を増やしたいと思っています。皆さんはいかがですか?
 

紳也特急 282号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,282  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『マスクの達人』~

●『生徒の感想』
○『考え方の“癖”』
●『原点、基本から考える“癖”を』
○『黙食でできる感染予防は?』
●『マスクでできる感染予防』
○『マスクでできない感染予防』
●『マスクでおこる感染』
○『絶対マスクをしなければならない場面』
●『マスクの達人講座』
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●生徒の感想
 先生の絆・自立・依存の話を聞いて、独りで生きていけばいいと思っていたのが、少しは人とも関わってみようかなと思うようになった。私はあまり性格が良い人ではありませんが、自分でできるかぎりのことをして、もっとたくさんの人とめぐりあって、いい出会いができたらいいなと思った。(中3女子)

 自分はテレビやSNSの情報を信じてばかりいたので考えを改めるべきだと感じた。(中3男子)

 私の固定観念を破壊した素晴らしい講習でした。あなたの教えは私の人生に必ず役立つでしょう。(高2男子)

 はじめに先生の身のまわりでたくさんの人が命を落としていることを知り、驚きました。また、それを阻止するために「根本を切る」という発想のコロナ対策に関する内容も、とても勉強になりました。(高1女子)

 自分はマスクは絶対につけなければいけないものだと思っていて、マスクをしていない人を見ると嫌な気持ちになるので、その認識を改めようと思いました。適切な条件下ならば、別にマスクを外しても問題ないということをしっかり頭に入れなければいけないなと思いました。(高1男子)

 生徒さんの感想はまるで生徒さんと対話をしているような感覚になります。そして多くの気づきをもらえます。新型コロナウイルス対策について、なぜ毎日感染者数を入力し、グラフを眺め、疑問点があればデータを加工し続け、気が付けば3年が経過しました。業務でもなく、お金になるわけでもないのにもかかわらずここまでやっているのは何故なのかを考えてしまいました。
 HIV/AIDSの時もそうでしたが、適切な情報提供がされないため、たくさんの人が命を落としているからです。もちろん亡くなられた一人ひとりを存じ上げているわけではないのですが、人が亡くなることって本当に辛いことですよね。この思いがコンドームの達人の活動の原点でした。最近は新型コロナウイルスを感染症法上の5類にするために、そして政府のこれまでの情報発信をうやむやにするために、マスクも、黙食も、個人の、自治体や学校の考え方、判断にゆだねられています。そこで、今月のテーマを「コンドームの達人」に学び、「マスクの達人」としました。

マスクの達人

〇考え方の“癖”
 この原稿を書いている時、NHKの朝のニュースで、寒波に備える心構えという視点に立った「知っておきたい考え方の“癖”」という放送がありました。大雪に注意という放送をしていても、結局のところ立ち往生や様々なトラブルが起きている理由をさぐったとのこと。あまり変化ないしいつもと一緒でしょという「正常性バイアス」、不要不急の外出は控えてという報道があっても、みんな外出しているし自分もいいでしょという「同調性バイアス」、これまで大丈夫だったから今回もたぶん大丈夫という「楽観主義バイアス」というのを考え方の“癖”として紹介していました。これって新型コロナウイルスに向き合う時の日本人の考え方ですよね。でも、これは考え方の“癖”ではなく、単に考えることを放棄している自分への言い訳だと思いませんか。

●原点、基本から考える“癖”を
 新型コロナウイルスの感染経路は飛沫感染、エアロゾル感染、飛沫やエアロゾルが落下した食品を食べたり、手に付着した飛沫やエアロゾルに含まれたウイルスを除去しないまま食べ物を素手で触って口に入れたりする接触(媒介物)感染の3つです。私の考え方の“癖”は、常に原点に、基本に、根本に沿うことです。この考え方の“癖”はケニア時代の小学校の教師の、“Shinya, why do you think so?”と繰り返し聞かれ、自分で説明することを求められたことで培われたのかもしれません。

〇黙食でできる感染予防は?
 学校で給食を食べる時、生徒さんたちは黙食を強いられ続けています。しかし、これは黙食が単に正常性バイアスに、同調性バイアスになっているだけで、そもそも食事の時にリスクとなる感染経路は何かを考えることを放棄した結果ではないでしょうか。
 食事中の会話時の飛沫で感染するのは、その飛沫を直接顔にかけられるか、料理にかけられ、その料理を食べた場合です。裏を返せば、会話をしても、相手の顔に、料理に飛沫をかけない、かけられないように注意すればいいだけです。「いやいや生徒たちはそれができないから黙食させている」というのであれば、生徒さんに「黙食」か「飛沫の飛ぶ方向を考えながらの会話可」のいずれかを選択させればいいのではないでしょうか。
 エアロゾル感染やエアロゾルが落下、付着することに対する対策は黙食でも、会話をしていても同じで、サーキュレーター等でエアロゾルを拡散、排気するしかありません。たまたまなのかもしれませんが、NHK首都圏ナビの番組で映っている教室でそのような装置が使われているところは発見できませんでした。
https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20230127b.html
 しかし、エアロゾルはうんと小さい飛沫なので、黙食でも出続けています。その落下したエアロゾルでクラスターが出たという報告は聞かないので、エアロゾルの落下による接触(媒介物)感染のリスクは非常に低いと考えられます。
 手に付着したウイルスについては素手で食べなければ、お箸やフォーク、スプーンで食べていれば大丈夫です。手で食べるパン食の場合は、パンを触る直前にアルコールティッシュでパンに触れる指先を消毒しながら食べればいいだけで、黙食は関係ありません。
 でもこのように、飛沫、エアロゾル、落下付着したウイルスとわけて考えられないから、「黙食」という言葉に同調するのです。

●マスクでできる感染予防
 マスクを着ける理由、外していい場面を確認するためにも、そして正しいマスクの使用方法を考えるためにも、そもそもマスクの意味、効用を理解する必要があります。
 不織布マスクや布マスクは飛沫が口から飛び出すのを防いでくれます。しかし、ポリウレタンマスクだと、飛沫を少しは通してしまいます。
 他者のくしゃみを浴びた場合はそのくしゃみの中の飛沫をもらう可能性がありますので、その時マスクをしていれば口を開けていても飛沫が口の中に飛び込むのを防げます。しかし、口を閉じていればマスクなしでも飛沫をかけられても飛沫で感染しません。
 エアロゾル感染予防で唯一マスクの効果が期待されるのが、口から飛び出したエアロゾルを不織布マスクが一定程度捕捉し、空中に飛散するエアロゾルの量を減らすことだけです。

〇マスクでできない感染予防
 ポリウレタンや安倍のマスクに代表される性能の悪い布マスクだと、かえって口や気道、肺が温められ、マスクを通過して排出されるエアロゾルの量が増えます。もちろん多くのエアロゾルがそれらのマスクを通過して吸入されます。不織布マスクをしていても、マスクと顔の隙間からエアロゾルが空中に排出されてしまいますし、マスクと顔の隙間から吸入されます。

●マスクでおこる感染
 不織布マスクを着けていながら、マスクの表面、裏面に飛沫やエアロゾルを付着させると、それらを吸い込むリスクが高まります。子どもたちだけではなく、大人たちもマスクの表面や裏面を繰り返し触っています。コロナ前にある中学校でマスクをしている生徒とマスクをしていない生徒でインフルエンザを発症するのはどちらが多いか調べてもらったら、マスクをしている生徒さんの方が多いという結果でした。これはマスクの正しい使い方を知らないためだと当時、養護教諭の先生と話していましたが、それ以外の理由として、マスクの表面に付着した飛沫やエアロゾルの水分が乾き、より小さなエアロゾルとなり、マスクを通過する可能性も否定できません。

〇絶対マスクをしなければならない場面
 しゃべりながら他人の顔に飛沫をかけてしまうのを避けられない介護。
 学生に調理の指導をしながら調理の場面を見せざるを得ない実習。
 他にもいろいろ考えられますが、裏を返すと、自分の飛沫が他人の顔や料理にかからないように工夫ができればマスクはいらないということになります。

●マスクの達人講座
 1.マスクは不織布、個包装

 2.包装から取り出すときはマスクの縁、ゴム紐、金具のところだけを触る

 3.マスクを広げる時は縁のところだけを触る

 4.マスクを外す際にはその形状を崩すことなく、顔に接していた面を下にして置く

 5.マスクの表面、裏面を触ってしまった場合は新しいものにとりかえる

 6.使用時間が長くなればなるほど、呼吸でマスクの表面に付着した他人のエアロゾルや飛沫が乾燥し、マスク越しに吸入されるリスクが高まるためできるだけこまめに新しいものに取り換える

 7.使用は最長で1日

 8.捨てる時はマスクに付着した自分や他人の飛沫やエアロゾルに含まれているウイルスが拡散しないよう封筒に入れて廃棄

 マスクを他人の飛沫やエアロゾルを吸い込まないため、すなわち自分が他人から感染しないためにつけていると思っている人が少なくありませんが、それこそ考えることを放棄する“癖”の結果でしょうか。私は屋内マスクが解禁になったらすぐに外します。皆さんはどうされますか?

「マスク、換気、手洗い」という正解依存症

 コロナ禍も4年目を迎え、新型コロナウイルス感染症も5類になりましたが、この3年以上の間、日本人は「マスク、換気、手洗い」という正解依存症に陥ってしまいました。あれだけ、マスコミから専門家と称する方々が「マスク、換気、手洗い」を言い続けてきたので洗脳されても仕方がないと思います。しかし、「マスク、換気、手洗い」は何のため?」を考えれば、それらが正解ではないことは当初からわかっていたことでした。

 マスクは自分の飛沫を口から飛び出すのは防いでくれますが、オミクロン株で主流とされているエアロゾルについてはマスクと顔の隙間からエアロゾルは侵入します。北大病院のHP(p4)にはN95マスクの周囲から10%の空気漏れがあれば、マスクを着用していないのと同じ状態になる」と書かれています。

 換気は二酸化炭素を排出する効果はありますが、エアロゾルはウイルスの周囲に水分が付着した状態で、一定の重量があるため、しっかりと空気の流れを創出し、外に排気するということが不可欠です。なのに、なぜかCO2センサーが各方面で導入されています。

 手洗いは飛沫やエアロゾルが落下したところを触った結果として手に着いたウイルスを洗い流すことが目的です。しかし、そもそも手指についたウイルスはどのように感染経路となる口、鼻、目にはいるのでしょうか。直接手指を入れたりなめたりしなければ、食べ物やコンタクトレンズを触る直前に手指を清潔にしなければ意味はありません。こまめな手洗いではなく、口等に素手で食べ物を触る直前の手洗いが必要です。

 正解依存症を脱却できましたか

「相談して」という正解依存症

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LGBT理解増進法はおかしい

 いきなり政治ネタですか、と言われそうですが、皆さんに問いかけたいと思います。
 皆さんは恋人を作るとしたら、異性がいいですか、同性がいいですか、両方いいですか、それともそのような感覚はないですか。
 皆さんは自分の体の性別と、心の性別に違和感はありますか。

 実は私はHIV/AIDSに関わり始めた時、今でいうLGBTQの方のことが理解できないばかりか、それこそ偏見の目で見ていましたし、差別さえしていたと思います。ところが、ある日、友人になったゲイの人と次のような会話をしていました。

岩:なんでゲイなの?
G:岩室さんはなんで女が好きなの?
岩:男なら女でしょ。
G:じゃ、オレ異常?
岩:ごめん。確かになぜ異性が好きなのか、自分でも説明できない。

 すなわち、自分がなぜ異性愛者なのかも説明することも、理解することもできないのに、自分とは異なる性的指向の人のことを理解するなんて無理ですよね。LGBT理解増進法は中身の問題ではなく、そもそも論として異性愛者が上から目線で「LGBTのことを理解してあげる」という法律ではないでしょうか。それこそ正解依存症の人たちが良かれと思って作ったとしか思えません。

「マスク、換気、手洗い」という正解依存症

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岩室紳也も正解依存症だった

 では「岩室紳也は正解依存症ではないのか」と自分自身を問い詰めてみると、実は岩室紳也も講演の中で自分の正解を押し付けていました。

 エイズウイルスに感染しないためにはノーセックスかコンドーム!!!

 HIV/AIDSの普及啓発に携わっていた時、このようなメッセージを得意げになって伝え続けていました。確かにこのメッセージはエイズウイルス感染予防の観点からいうと、非常に科学的で正しいと言えます。しかし、講演でこのメッセージを聞いたにもかかわらず、結果的にエイズウイルスに感染した人がいたとしたら、「岩室先生に診てもらおう」と思うでしょうか。おそらく逆の思いで「岩室先生に正解を教えてもらっていたのに、それを守れなかった自分」という思いになり、私の外来を受診できないですよね。岩室紳也こそが正解依存症だったと思い知らされました。

 ここでは少しずつ、世の中に蔓延する正解依存症について、紹介しつつ、そこから脱却するにはどうすればいいかを考えたいと思います。

LGBT理解増進法はおかしい

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正解依存症とは

 岩室紳也が考える正解依存症とは次のようなものです。

 自分なりの「正解」を見つけると、その「正解」を疑うことができないだけではなく、その「正解」を他の人にも押し付ける、自分なりの「正解」以外は受け付けない、考えられない病んだ状態。

 「依存症」と聞くと薬物依存症、アルコール依存症、ゲーム依存症、ネット依存症、セックス依存症、等々を思い浮かべると思います。私も個人の問題だと思っていましたが、それは大きな誤解だと気づかされました。その結果、松本俊彦先生たちと「つながりから考える薬物依存症」(大修館書店)という本を出させていただいています。

 一言で言い切ると、それは正解依存症と怒られるでしょうが(笑)、少なくとも正解依存症は孤立、孤独の病気のようです。
コロナ禍の時、ある中学生が「親には家でゲームばっかりやっていると言われるけど、コロナで学校にも行けず、友達と遊べず、結果的に家ですることがないからゲームをしている。学校に行けるならゲームなんかいらない」と言っていました。

正解依存症まん延社会

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正解依存症まん延社会

 コロナ禍を経験し、またいろんなところで感染予防の話をさせていただく中で、つくづく感じさせられたのが、多くの人が求めていることが唯一無二の「正解」だということでした。一通り話し終わった後、「話の内容はよく分かったのですが、で、結局のところマスクは必要ですか、不必要ですか」との質問を受けると、自分自身の普及啓発能力を反省するしかありませんでした。しかし、マスクに限らず、様々な場面について同じように「〇〇は必要ですか、不必要ですか」や「〇〇は是ですか、非ですか」と繰り返し聞かれる中でふと思い出したことがありました。
 新型コロナウイルスが広がる中で、政府の専門家委員会の先生と話をする機会があった時に、きっぱり、「私は岩室先生とは意見が異なります」と言われ、残念ながらそれ以上議論を続けることが出来ませんでした。
 一方で次のように言われたこともあります。

 岩室先生は見えてくるもが多いと、楽しいと表現されていますが、多くの人は逆に混乱に陥ると思います。AかBだけでなくて、A~Zまであったら、どれが正しいのかという視点になるからだと思います。

 なるほどと思いました。新型コロナウイルスとマスクの関係のA~Dを並べてみました。

A:飛沫感染をさせないためにはマスクは必要。
B:自分が飛沫感染しないためには、飛沫を直接顔にかけられそうになったときはマスクは効果的。
C:不織布マスクをしていてもマスクと顔の隙間からエアロゾルはむしろ多く排泄されることになる上、マスクをしていてもエアロゾルはマスクと顔の隙間から吸い込むのでエアロゾル感染対策にはならない。
D:いろんなところを触った指を洗わない、消毒しないままマスクがずれた時にマスクの表面を触ったら、指についていた飛沫やエアロゾル内のウイルスがマスクの表面に付着し、結果的に吸い込むことになって危険。

 「ややこしい話はどうでもいいから、マスクは必要か不必要かを教えてくれ」という方が多いのではないでしょうか。

 確かにそのような視点に陥れば苦痛以外の何物でもないでしょう。でも、人間って、というか生きるってことはそんなに単純じゃないですよね。マスク警察が跋扈した時、科学的に考えられない、一方的に自分の意見を押し付ける人はなぜそうするのだろうか、と考えていました。そこにあったのは、正解依存症がまん延している社会でした。

岩室紳也も正解依存症だった

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